イオンの400円バナナとオーガニックのコノスル、それとサンマルクカフェ(後編)

昨日のバナナの話の続きです。

イオンがPBで出しているひと袋400円のバナナが、もっちりして華やかでおいしい、という話でした。資金も人材も持っている大企業ってすごいよなあ、と感じるおいしさです。

そして、僕の住む町新札幌では、その高いバナナは、3袋くらいしか棚には置いてありません。あまり仕入れないのだと思います。こんなにおいしいのだからもっと仕入れればいいのに、とは、ところが、全然思いません。むしろ、よくこの価格帯のを置いてるな、というのが感想です。そう、新札幌は、そういう場所なのです。

僕の住んでいる新札幌は、新千歳空港から札幌駅に向かう途中にある、一応特急も停まる駅です。地下鉄、JR、バスの三つの駅があり、札幌駅まではJRで8分、というので、観光客がぞろぞろと連れ立ってくる駅でもあります。駅の経済圏には、かなりの住民がいるはずです。

でも、さえない町なのです。大きな声では言えませんが、中央区に比べると、おそらく、所得の低い地域です。札幌市内には、もっと古くて、お化けが出そうで霊能者が活躍しそうなところや、あそこは風紀の悪い地域だからね、と言われるところは、他にあります。新札幌は、開発されたのが比較的新しい町なので、良くも悪くも、そこまでの文化はありません。ただ、なんというか、低所得者層の多い町なのです。ちなみに、2016年の末くらいに取り壊された市営団地は、道内ではもっとも古い団地でした。いえ、余談です。

さて、そんなところにあるイオンです。そりゃあ400円のバナナなんて売れないよなあ、というのが本音ですし、イオン本社も、そう考えている節があります。

2016年の末から、新さっぽろ駅直結のショッピングモール(?)が大幅に改装されて、ますますイオンらしくなってきています。お客さんより店員さんの方が多い一階の婦人服売り場を一掃して、そこにはタリーズコーヒーや、ここのところ儲かっているであろう、アウトドア用品が、目が眩むほどたくさん並べられています。やはりイオンさんはすごいですね。これまでは、パッとしない飲食店が点在していたのを、どういう交渉をしたのか閉店させ、フードコートをどんと作って、そこへ集客を図っています。いきなりステーキに行列しています。

イオンの前身はダイエーで、イオンになってから改装するまでは、結構な期間がありました。2年くらいだったような気がします。ダイエーはダイエーなので、酒も日用品も置いてありました。そのお酒コーナーには、南インド屋が出していた、チリの有名ワイン、コノスル・オーガニック・シャルドネも置いてありました。なかなか売っている店がないので、これは非常に助かっていました。酒屋さんでも置いてないのです。

それで、改装後です。それまではダイエーの名残、というよりほとんどがダイエーのままだったのが、本格的にイオンになったのです。そして、ワインの棚からは、コノスルオーガニックは消えていました。代わりに入っていたのは、コノスルのヴァラエタルという、一番安い800円前後のシリーズだけでした。ああ、イオンは本気なんだな、と棚の前でうなりました。ちなみにオーガニックは1300円くらいです。ある意味牧歌的な、お客さんのほとんど入らないフロアを放置するようなダイエーとは違い、イオン新札幌店の担当者の目には、新札幌のお客様は、500円を余分に払って、オーガニックの方を買いはしない、と映ったのでしょう。まったくそのとおりです。個人的には有機だろうが無機だろうが構わないのですが、単純に、オーガニックの方が数段おいしかったのです。

そういうイオン新札幌店です。400円のバナナを、申し訳程度にちょっぴりしか仕入れないのは、むべなるかな、ということです。

さて、もう少し新札幌の話を続けます。2016年末に行われた大規模改装は、簡単に言うと、さえない個人経営の店をなくして、全国的に展開するお洒落な店か、もしくはイオンの息のかかった店をいれることです。それ自体は、個人的には大歓迎です。人がたくさんいる割には、よい飲食店が無いのが新札幌の特徴だったので、それなら大戸屋やリンガーハットが入った方が嬉しいのです。

入れ替えの中のひとつに、カフェがあります。宮越や可否茶館、それにUCCなどの喫茶店はあったのですが、カフェはソラーレという店しか無かった新札幌に、サンマルクカフェと倉式珈琲、それにタリーズもできたのです。開店してすぐ、あっという間に繁盛店です。こんなに人がいたんだ、と思うくらいに人がたくさんいます。

とくに、サンマルクカフェは、店員さんもかんじがよく、てきばきしていて、ベトナム珈琲もおいしいです。これこれ、これが新札幌に欠けていたんだよ、と言いたくなるカフェです。悔しいけれど、北海道はこんなもんです。これまでは、ちょっとお茶してく?と気になるあの子を誘えなかったのが、これで誘い放題です。どうする?倉式とどっちが良い?ハハハ、そんなに悩むなって、俺も困っちゃうよ。実は同じ会社の店だから、珈琲豆は同じかもね、ハハハ、と軽妙なトークだって出来るのです。

ところで、小説や漫画やアニメなどで、タイムスリップものって、冗談じゃなく星の数ほどありますよね。その中で、タイムスリップ→恋人を火事から救いたい→歴史改変→でも恋人は車にはねられて死ぬ→「歴史、そのものの意思よ。歴史の修正力が働いたの。われわれの行動なんて、海に小石を投じるほどのものでしかないのよ」

という流れは、ありがちです。そう、新札幌という町のもつ意思、新札幌の修正力が、サンマルクカフェにも襲い掛かっているのです。

サンマルクカフェの店員さんは、かんじの良い人が多いのですが、ここ最近、あれ?となることが続いています。それまでは見なかった、参考書を開いて、5時間でも10時間でも陣取る若い人たちが、ピークタイムの席を埋めています。カルチャーセンター帰りのお年寄りが、ひときわ元気にしゃべっています。仕事上がりの店員さんが、そのまま店内で、彼氏と何も注文もせずに、レジの真ん前の席でだべっています。

これこれ、これが新札幌の底力、と、ダイエーの中内会長の残党ではありませんが、つい握った拳に力が入ります。開店当初は、本部から派遣されたと思われる目つきの鋭いお兄さんがいましたが、今はいません。新札幌の経済圏には、働きたい人はいくらでもいます。自然、店員に占める地元出身の割合は高まります。お客様は、大半は新札幌の人たちです。

そう、徐々に、徐々に、収束していくのです。すべては、もとにもどるのです。エントロピーは、常に増大するのです。

まだ、改装してから三か月くらいです。400円バナナが棚から消えることがあったら、そのときは引っ越しを検討しようかと思います。好きです、新さっぽろ。