スパイスへの思い入れ。コリアンダーシード、パクチーの種。

コリアンダーシード

先日に続いてコリアンダーです。今度はシードなので、つぶつぶの方です。

コリアンダーシードを挽けばコリアンダーパウダーになるのですが、これがなかなか、別物なのです。基本的にインド料理では、コリアンダーパウダーを、コリアンダーシードで挽いたもので代替することは、おすすめできません。

なぜなら、コリアンダーシードは、華やかな香りがするからです。

コリアンダーパウダーは、まえのコラムで述べたように、味も香りも、するんだかしないんだか、という釈然としない味で、レシピを書く方もそれを前提としているので、そこに、華やかな香りのコリアンダーシードを挽いたものを入れると、主張が強すぎます。自分で挽いて、それをしばらく放置して香りが抜けてきたのを使えばよいのかもしれませんが、なんだかそれもむなしいですね。

それで、コリアンダーシードは何に使うかというと、ミックススパイスを作るときに良く使います。ガラムマサラやサンバルパウダー、もしくは日本のカレーパウダーにも入っていると思います。こういう時には、コリアンダーパウダーでなく、コリアンダーシードを使った方が良いです。

パウダーと同様、南インド料理の、とくに野菜料理ではあまり使わない印象ですが、なぜかというと、香りが強いからだと思います。だから、南インドでも、比較的しっかり味をつけるような料理には、使いそうです。稲垣さんにご指摘いただいたように、マイソールラッサムでは使うそうです。作ったことはありませんが。

そして、粒のままつかうとなると、マトンカラヒとか、札幌にあるインドカレー屋さんで出てくる、スパイシーマッシュルームマサラとか、そういう、玉ねぎも塩も油もたっぷり!というような料理に良く合うと思います。モハンディッシュという店の、色男風のお兄さんが、「コリアンダーは、初めに黒くなるまで油で炒めます。アリガトゴジャイマス」と言っていました。彼がいると、ホールが締まります。

他には何に使うかと言うと、パクチーを育てるのに使います。タイ料理ではありませんが、あえてパクチーと呼びます。コリアンダーシードを播けばパクチーになるんですよ!すごいですよね!当たり前ですよね!

パクチーって、おいしいですよね。南インド屋のレシピでは書いていないのですが、サンバルにもラッサムにも、刻んだものを入れると、急に異国の香りになります。南インド屋開店当初は、パクチーの仕入れが安定しなくて、庭で育ててもらったり、車を持たない僕の代わりに買いに行ってもらったりと、みなさまにはお世話になりました。

コリアンダーシードを土にパラパラ播いて、適当に水をやっていれば、簡単に育つようです。ようです、というのは、僕は育てたことがないからで、もし育てても、水をやるのを忘れて枯れさせる自信があります。

すすきのにある、その目は切開法の二重?というタイ料理屋さんの女性は、プランターより、土に直播の方が良く育つと言っていました。北海道大学近くのドミニカ料理のマルちゃんは、大丸の八百屋さんのは高くて買えない、と言っていました。そうですね、だから自分で育ててるんですね。うん、でも、このパクチー、あんまり香りがしないね。八百屋で買った方がいいかもね。

パクチーは、順調に育つと、緑色の海ブドウみたいな実がなります。これが、おいしいのです。

ぷちぷちとして、「あ、パクチーって、コリアンダーの葉っぱだったんだ!」という当たり前のことを思い出させてくれる味です。コリアンダーシードの香りと、パクチーの香りの、中間のような香りなのです。ミッシングリングなのです。もちろん、この緑の実を放っておくと、やがてコリアンダーシードになります。そうなると勿体ないので、緑のうちに食べてしまいます。

コリアンダーシードでなく、パクチーの話を続けます。

パクチーって、結構、質にばらつきがありますよね。買って悲し思いをしたことはありませんか。

そもそもパクチーは、慢性的に品薄です。すくなくとも札幌では品薄です。S&Bで出しているパクチーなら、たまにイオンにもありますが、あれは根を切っているし、量も少ないので物足りないです。

なんとか農園、というところが、ちょっと前からパクチーの栽培に力を入れているようで、一部を百貨店にも卸しています。その農園は「パクチーは僕たちに農業の大変さ、その本質を教えてくれました」みたいなことを語っていて、そのほか全体的に、まあよくしゃべる農園なのですが、買って食べてみたら、これは水菜か?というような味でした。いまはどんな味か知りませんが、すくなくとも三回ほど買った結果は、水菜でした。

南インド屋では、たしか栗山という町のパクチーを使っていたのですが、香りは、まあまあです。一番香りが強いのは、大丸で売っている、ちょっぴりで400円くらいするもので、これは本当に、パクチー嫌いが、パクチーを嫌いな理由が詰まっています。もう、最高です。

パクチーの香りは熱に弱いので、料理の最後に加えると良いです。また、根っこの部分がおいしいので、捨てずに細かく刻んで使ってください。

また、葉の部分は、香りは薄いのですが、見た目が良いので、プロっぽさを演出したいときには必須です。肉がひとかけらしか入っていなくても、パクチーさえ浮いていれば、プロっぽいです。

これまで南インド屋では、パクチーの入手性の悪さから、レシピに入れないことも多かったのですが、今後は、やはり加えることにします。万難排して、パクチーを入手してください。