おいしい店は続かない、と言ったのは誰だったでしょうか。長続きするのは、まあまあ、そこそこ、という店なのですね。統計的なデータは見たことがありませんが。
そこで、いきなりステーキです。繁盛していました。おいしかったですし、長続きしてほしいと思います。
けれど、5年後もこの店が流行っているかと言えば、そんなことはなさそうな気がします。
単純に、5年後には飽きられる、という話だけではありません。もっと広く、皿の中に資源を集中させた店の危うさを感じました。
少なくとも札幌南店からは、色々な意味で、危うい印象を受けました。それが、どう危うかったのかを述べていきます。
①原価が高くて危うい
いきなりステーキは、原価率の高さを売りにしているみたいですね。60%から70%くらいとかなんとか。だから、立ち食いにして、どんどんお客さんを入れて、利益を出しているそうです。
食べる方としては、あの値段で肉心を満足させることができて嬉しいのですが、原価率の高さはそのまま、集客ペースを落とすことが許されないことを意味しますよね。
肉好きの人は沢山いますし、お洒落じゃなくてよいから、がっちり食べたい、という需要は、5年後だってかわらずあるとは思います。ただ、浮動票が減った5年後でも、今と変わらず行列を保ち続けなければいけないのなら、なんというか、経営者としては、精神衛生上良くなさそうな気がします。
そしてもし、原料高や売り上げ減で、コストカットをしなくてはいけなくなった時のことを考えてみます。
値上げが許容されればよいですが、もし、肉の質を落としてしまうと、そこからさきの落ち込みは激しくなると思います。肉の味を楽しみに来ている人たちは、その部分に敏感なはずです。あそこ、昔はおいしかったのにねえ、と言われること請け合いです。
そういう意味で、原価を高くすると、走り続けないと死んでしまうのですね。まあ、すべてのビジネスがそうとも言えますが。
②内装が危うい
一緒に行った建築業界の友人が、待っている間に、ガラスに貼ってある、ステッカー(?)、シール(?)のようなものの端がめくれているのを示して、内装業界のずさんさを嘆いていました。飲食店の内装業は、大体が突貫工事だから、多少粗が目立っても、文句は言われないそうです。へえ、そうなんですね。
そう思って、見渡してみると、オープン3か月とは思えないほどの、店内のくたびれ方でした。椅子もテーブルも壁も、新しい店には見えませんでした。汚い訳ではないのですが、きちっとはしていません。ああ、この店は、肉を楽しむ、それだけの店なんだなあ、というメッセージが伝わってきます。簡単に言うと、ちゃちな作りです。
そういう内装の危うさも、常に客が出入りする慌ただしさで目立たないのですが、これが、がらんとした店だったら、見え方は変わってくるだろうと思います。そういう意味でも、常にお客さんをどんどん入れないといけない店です。危ういですね。
③働いている人が危うい
働いているのは、若い男女が多かったです。店長以外はアルバイトなのかなあ、というかんじです。決して感じが悪い訳ではないのですが、働きぶりは、きびきびはしていません。
店長がけっこうな大声で従業員に注意をするのがBGMになっています。けれど、みなさん、動きはきびきびしていません。あんまり注意されて委縮しているのかもしれません。
あれだけ繁盛すれば、働く方は目が回る思いだと思います。お疲れ様です。やめたくなりますよね。人が長く働けない店は、荒んでいきます。そういう店は、気心の知れた恋人との食事でも、ちょっと躊躇します。本当にコアなお客さんはまた来ますが、そうでない人は、1回行けば、2回目はないかもしれません。
値段を考えると、サービスが足らん、なんてことは決して言いませんが、そういう意味でも、皿の中に特化した店のようです。料理以外で満足感を与える店ではないのですね。いやあ危うい。
④焼き方が危うい
ワイルドステーキ450g(1800円)を注文しました。3人で行って、3人とも同じものを注文したのですが、焼き加減はまちまちでした。僕のは、火が通りすぎて硬かったです。もうすこし生っぽいほうがおいしく食べられたはずです。
ワイルドステーキは、表面を焼いただけで提供され、それを自分の鉄皿で好きなように加熱して食べる方式です。見ていると、かなりの強火で表面を焼いているようで、焼き目は、かなり硬くなっています。焼き場の人は、けっこう適当に焼いているように見えました。同じものを3枚焼いて、かなりのばらつきが出るのだから、まあ、そういうことでしょう。
ステーキに詳しい訳ではありませんが、もうすこし火力を落としたほうが、おいしく焼けるような気がします。ただ、回転率の関係でそれもできないのですね。うーん、難しいところです。もうすこしうまく焼けば、味は全然違うと思うのですが。
大量の肉を食べて、肉心は満足するのですが、味を楽しめたかと言うと、微妙なところです。夜ならまた違うのかもしれませんね。ただ、そうなると、問題が出てきます。
⑤値段が危うい
夜であれば、昼よりも良い焼き加減のものが出てくるのかもしれませんが、正直に言って、僕はあの店に、夜に行きたいとは思いません。
いきなりステーキは、肉の量からいって、決して高い店ではありません。安いと思います。ただ、結局支払う金額は、1回の食事としては、安くはありません。
夜に、一番安いリブ・ロース6.5円/gを、400g食べたとすると、ステーキだけで、2600円です。サラダにライスもつければ3000円はします。荒れた店内で、黙々と食べる美味しいステーキに、3000円を払いたいかというと、僕は払いたくありません。違うことに使いたいです。
ということで、夜は安いんだけど高い、ランチは安いけど焼き方がいまひとつ、ということになってしまいます。
まとめ
いきなりステーキは、好きな店です。コンセプトの思い切りの良さが素敵です。
ただ、このままでは、5年後には繁盛してはいないと思います。これまで書いてきたように、肉以外が、あまりに危ういからです。
先のコラムでも書いているように、常々思っていることがあります。
「お洒落風の間接照明なんていらないから、おいしいものが食べたい!だからそういう店が増えてほしい!」
いきなりステーキは、皿の中に資源を集中させる、という考え方を、純化したような店です。
ところが、皿の中に集中した店が好きなんだ!と言っておきながら、いきなりステーキを前にすると「やっぱりお洒落な店もいいな……」と思ってしまいます。3000円払う食事なら、もうすこしお洒落な店が良いのです。
個人的には、また行ってもいいかな、と思います。僕は大食らいですし、お洒落カフェより、とにかくおいしいものを、という考え方なので、僕の嗜好によく合っています。
それでも、ぜひまた行きたい!というほどでもなかったのです。
自分で肉を焼かせてくれるようになったら、また行ってみたいと思います。
わりと関連のある記事を紹介します
南インド屋の運営方針を書いています。
こういう考え方なので、いきなりステーキは好きだけど、
それでも、ちょっとなあ、という気持ちになります。
このエッセイでも、皿の中に資源を集中させることの意義を書いています。
香州という中華屋さんは、良い塩梅で、良い店です。
こちらも一応、皿の中に資源を集中させることになるのでしょうか。
どういう風に集中させるか、というのも大事ですね。薄い珈琲は嫌いです。