クミンへの思い入れは、正直に言ってあまりなくて、なんというか、クミンとは心が通じないのです。おいしいし大好きなのですが、使っているときはいつも、「使うとおいしくなるからつかおう」とか「使うとインドっぽくなるからつかおう」というような気分で使っています。マスタードを使うときの「ひょー、マスタード入れちゃおー」という気持ちや、フェネグリークを熱した油に入れた時の「うほおー」という恍惚とした気分とは、大分ちがいます。
実際、クミンはスパイスの中でも、重要性において、かなり上位に来ます。
肉に良し、魚に良し、野菜に良し、ココナッツに良し、豆に良しです。
香取薫さんの「5つのスパイスだけで作れる!はじめてのインド家庭料理」(講談社お料理BOOK)でも、クミンが取り上げれられていますし、ネパール料理でも、クミンとフェネグリーク、ターメリックにチリがあれば大体が賄えます。チリコンカンなんかにつかう「チリパウダー」というミックススパイスにもクミンが入っています。
ところで、香取薫さんって、芸名なのでしょうか。カトリ(カレーを入れる食器の名前)、香る、というインド料理研究家ですよ。黒木瞳や阿部マリアと同じ匂いがします。僕は、こういう真正面からくるダジャレにはなかなか気が付けないので、つい最近、店員Aに言われて気がつきました。「アスクル」が「明日来る」というのにも気が付きませんでした。ジュンク堂が、クドウジュンなんですってね。ひゃー、すごい。香取薫さん、本名だったらごめんなさい。陳謝します。藤川球児みたいなパターンもありますものね。
話がそれましたが、つまり、クミンは、おいしいのですね。何に入れたっておいしいのです。チーズにかけてもおいしいです。クミンがあれば、万事うまくいく、という安心感です。カレーが何か物足りないと思えばクミンを足せばなんとかなります。
いわゆるお店っぽいチキンカレーを作りたければ、提供直前に、油でおろしにんにくとクミンパウダー、ブラックペッパーパウダー、それにガーリックパウダーとジンジャーパウダーも合わせて炒めて、そこに冷蔵庫に入れておいたチキンカレーを、ごろっと入れて(チキンの成分がゼラチン状になるのです)炒め合わせれば、たぶんお店っぽい味になります。南インド屋の味ではありませんが。
そう、クミンは、いわゆる「カレーっぽいカレー」と密接に結びついていて、ミールスにはあんまり合わないのですね。TaniguchiNaokiさんは、ティファン用のサンバルにクミンを使わないようですが、その気持ちはよくわかります。
油でクミンを炒めるとすごく良い香りなのですが、たとえばダールにテンパリングするとき、色づくくらいに火を通してしまうと、ミールスのダルというよりは、ダルタルカっぽい香りになってしまう気がして、個人的な好みとしては、あまりクミンには火を入れないのが好きです。かすかに生っぽい香りが残るくらいです。ただ、ネパール料理では、がっちり黒くなるくらいにクミンに火を通すのが好きです。矛盾していますね。
かといって、渡辺玲さんの「カレーな薬膳」にある、クミンのカリフラワー炒めのように、調理の途中でクミンを入れるのは、好きじゃありません。クミンの硬さが口に残ってしまいます。好みの問題ですが。
うすうす気がついていたのですが、僕はあまりスパイスが好きではないのかもしれません。というより、スパイスを入れるときには、油も塩もうまみも、きっちり入れてほしいのです。だから、そのどれも薄めでつくる南インド屋の味は、スパイス控えめなのです。
南インド屋のレシピではクミンをそれほど使いませんが、使うレシピでも、クミン抜きで作っても大丈夫です。よりさらっとした味になります。ぜひお試しください。