フェンネル、fennel、ウイキョウ、フランス人はフヌユ、と呼ぶ、あの、うす緑のつぶつぶです。インドカレー屋さんのレジの横に置いてある、あれです。僕の昔のアドレスは、fennel-cuminでした。
フェンネルっておいしいですよね。そのまま齧っても良いし、チーズに振りかけて食べるとおいしいよと教えてくれたのは、まばたきするくらいの間お付き合いした、あれ?アルコール依存症?という酒飲みの女性でした。煮だして飲んでもおいしいし、カレーを作るとき油で炒めると、なんだか本格的な味がします。本格的って何でしょうね。
南インド屋でも、フェンネルティーをお出していました。飲むと胃腸がすっきりするような気がします。いくら食べても、それさえ飲めば帳消しです(薬事法は知りません)。ワダの生地が余った時は、全部揚げて、ココナッツチャトニをたっぷりつけて全部食べて、チャイを飲んで、そしてフェンネルティーです。幸せだったあのころ、ですね。
そんなフェンネルですが、お風呂に入れると、肌がぴかっとなる気がします。
僕は大学に4年間通ったあと、どうするかなあ、と思いとりあえず二年間の休学届を出して、大学のそばの2万5000円(水道費こみ)のアパートで一人暮らしをはじめました。コンビニで深夜のアルバイトもはじめました。札幌駅ヨドバシカメラ近くのセイコーマートです。
引っ越しの時には、祖母の家にある文学全集を軽トラックに積み込んで、洗濯機もないのに本はたくさんある、1kの部屋でひとり暮らしを始めました。本を読んだり映画を観たり、アルバイトをしたり散歩をしたり、の日々でした。つまり、暇でした。
そんな時に、ものすごく珍しいことに、女の人と会う用事が出来ました。デートです。暇なのだから万全の状態で臨もう、と思い立ち、朝から大学構内を走りこんで顔がむくまないようにして、そのあと真四角の小さい湯船にお湯を張り、そこにフェンネルを煮だしたのを入れて、にやにやしながら湯につかって肌をこすりました。かなり気持ち悪いですね。安アパートなので、玄関に近い浴室からは、ものすごい勢いで熱が逃げていきます。追い焚き機能などあるはずもなく、あっという間にお湯は冷めるので、時々沸かしたお湯を足すのです。普段はけちけちして暖房もつけないくせに、こういう時はがんがん沸かすのです。
そして、夜の街に繰り出せばよいものの、一緒に近くの定食屋さんに行って夕飯にして、それじゃあ、と別れておしまいです。お風呂に入ってお腹もいっぱいでよく眠れます。やる気はあるのか、と訊かれると、たぶん無い訳ではないと思います。
そんなフェンネル風呂(フェンネル・バスと言った方がお洒落ですね)は、とてもお勧めです。塩を入れても良いです。もうちょっとスパイを足せば、ビリヤニの米を茹でる鍋のようです。他のスパイスでもまた気分が変わって楽しいです。