スパイスへの思い入れ。ほろ苦いフェネグリーク。

フェネグリーク、フェヌグリーク、fenugreek、メティ、methi、と表記されます。

フェネグリークの匂いを嗅ぐと、子どものころを思い出します。

祖母の家に遊びに行って、なにかオヤツないかなあと、棚を探ります。あった、よくわからないチョコレットバーだ。小学生はお腹を空かせているんですね。一口齧って、吐きだします。あれっと思って裏返すと、賞味期限がひどいことになっています。こうして、油が酸化したときの味を覚えました。アメリカのチョコや、インドのスナック菓子も、同じような味がすることがあります。

そういう、劣化した油の匂いと、フェネグリークの匂いは、ちょっと近いのです。

あ、フェネグリークの匂いは、良い匂いです。いかにもカレーらしい匂いがします。これと、クミンを合わせると、日本のカレーっぽい匂いになります。

フェネグリークは、挽いて使うとカレーらしい匂いになり、熱した油に入れてこげ茶色にすると、ほろ苦く甘い匂いになります。

南インド屋のレシピでは、サンバルに挽いて入れるのと、あとは、プリセリにテンパリングして使います。ほかには、あんまり使いません。レシピによっては、ラッサムにつかうこともありますし、サンバルにテンパリングでいれることもあります。挽いたものは、ピックルというオイル漬けのようなものにも使います。

渡辺玲さんの『カレーな薬膳』にもメティ・カレーとして載っている、フェヌグリークが主役のカレーもあります。vendhaya kuzhambuです。これは、油でスパイスや豆などを炒め、そこにタマリンドと水を入れた、変な味の汁です。最高においしいです。

フェネグリークは、とにかくカレーっぽい味になるので、何に入れても、大失敗にはならない気がします。ただ、テンパリングの時は、非常に焦げやすく、色づき始めたなあと思ったら、すぐに火を止めないと、あっというまに黒くなってしまいます。ありがちなミスです。僕も、プロを名乗っていたときでも、たまに焦がしていました。

ネパール料理でも、フェネグリークは大活躍です。そもそもネパール料理は、インドのように華やかなスパイス使いをすることは少なく、チリとターメリックと、クミンとフェヌグリークが基本だと思います。なので、使用頻度が高くなります。タルカリには、スターターとしてつかったり、挽いて入れたり、アチャールにも、良く使います。

そして、ネパール料理の場合、フェネグリークは焦がしてなんぼです。はじめに鍋に油を熱し、そこにクミンを放り込みます。焦げ茶を通り越して黒に近くなったところでフェネグリークを入れると、油の温度が高いので、シュワシュワと泡が出てあっという間に焦げます。そうして、まる焦げ一歩手前くらいまで黒くした苦みが、ネパールっぽさなのだと思います。まあ、ほんとうに真っ黒焦げにしても、それはそれでいいや、という気持ちで作れるのも、ネパール料理の良さの気もします。ネパールの人たちごめんなさい。

フェネグリークはほろ苦いスパイスなのですが、それを土に植えてみると、またおいしい葉っぱが生えてきます。ほろ苦くて、草っぽい味のする草です。カスリメティ、と呼ぶようです。これを乾燥させたものをカレーに入れると、急に「あ!インド人の味だ!」となります。カスリメティと呼ぶようです。いかにもムスリムっぽい味だと思います。僕は、乾燥させないフェネグリークリーフも好きです。以前、インド人の家にお呼ばれした時の夕飯は、フェネグリークリーフとほうれん草で作った、キーライサンバルkeerai sambarでした。ほろ苦くておいしいのです。発芽させてスプラウトにしても、栄養価が高いらしいです。ためしたことはありませんが。

僕は、植物を育てるマメさや根気が足らないので駄目ですが、ミント、コリアンダー、カレーリーフ、フェネグリークリーフ、このあたりを庭で育てたら、生活が豊かになる気がします。カレーリーフ以外は育てやすいはずです。ぜひお試しください。


わりと関連する記事を紹介します

『カレーな薬膳』書評

メティ・カレーのレシピはこの本に載っています。面白い本だと思います。有名な本なのですが、初学者や体系的に学びたい人には、あまり向かない本だと言うことを述べています。

サンバルのレシピ

南インドのサンバル

サンバルパウダーには、フェネグリークが入ることが多いと思います。

入れないと、よりあっさりした味になる気がします。

エッグローストのレシピ

ゆで卵のカレー「エッグロースト」のレシピ

このレシピでは使っていませんが、こういうカレーらしい味のものには、フェネグリークを挽いて入れてもおいしいです。