ビリヤニは本当に難しい料理なのか、という話

どうもインド人でーす、と電話をかけてくるお客さんがいました。

日本語をべらべら喋って、ニックと名乗っている、あやしいインド人です。彼はボンベイの出身と言っていました。ムンバイでなく、ボンベイというのは、世代によるのでしょうか。僕も近くにあるイオンを、ついダイエーと呼んでしまいます。

平日の夜にたまに出していたチキンビリヤニを、ニックは、うまいうまいと言って食べていました。「おにいちゃん、ねえおにいちゃん、ビリヤニの大事なこと、わかる?これこれ。フライドオニオン。これがビリヤニで大事なの」。いつも声が大きいです。

ビリヤニにフライドオニオンが大事、そうでもないんじゃないかなあ、と個人的には思うのですが、たしかにフライドオニオンはおいしいです。玉ねぎのおいしさを濃縮したうまさです。これにバスマティライスの匂いがまざると、一気にビリヤニの匂いになります。

玉ねぎはおいしいのですが、生の玉ねぎは、当然水分を含みます。なので、それこそきつね色になるまで炒めることもあるのですが、それならいっそ揚げてしまえ、ということで、ムスリムっぽい肉カレーだと、玉ねぎを炒める代わりに、フライドオニオンを使うことがあります。カレーは、水分調節が大切なので、フライドオニオンの方が扱いやすいという意味もあります。

そこでビリヤニです。ビリヤニも、水分調整が大切です。現在準備中の「カッチビリヤニ論」という偉そうなタイトルのコラムは、陽の目を浴びるかどうか怪しいのですが、とにかく、ビリヤニは水分調整が大切です。

そして、水分調整というのは、火力や、鍋の材質・形状・大きさに、強く影響されます。

ちょっと話は広がりますが、料理って何が難しいかと言うと、塩分と水分の調整だと思っています。塩分と水分がばっちり決まっていれば、大体の料理は美味しくなるのですが、これがなかなか難しいです。レシピの再現性の問題でもあります。南インド屋と同じ味にしたい方は、まずは下記の地点にいらしてください。GPSはありますか?

緯度:43度3分24.954秒

 経度:141度19分35.275秒(141.326465

それは半分冗談として、それでも、半分は本気です。

実験をしてみましょう。家にある違う形の鍋を2つ用意して、500mlの水を入れ、同時に強火にかけてみてください。きっと、沸騰するまでの時間は、違うと思いますし、そのままボコボコ沸かし続けて10分たったときの、鍋に残った水の量も違うかと思います。きっと左右のコンロで火力の差もありますよね。

二つの鍋に、おなじく小さじ1の塩を入れて溶かします。そこに小さじ1/2の醤油と1カップのだし汁を入れて、麩を浮かべます。

きっと2つの鍋には、違う味のお吸い物が出来上がっています。再現性の問題と言うのは、つまり、こういうことです。だから、レシピでは、salt to  tasteと書かれているのですね。厳密に言えば、まったく同じ環境を用意しないと、同じ味にはなりません。まあ、人間の舌はそこまで繊細にできていないので、レシピというものが成立するのですが。

それで、ビリヤニの話です。ビリヤニは難しい、とはよく言います。インドでは専属のシェフがいるとも聞いたことがあります。

インドなら、玉ねぎの皮むき専属のシェフもいそうですが、まあ、良いです。飲食店が敷居を上げてありがた味を出している、という可能性もありますね。鮨は10年は修行しなきゃならん、という具合に。

ビリヤニは、結局、鍋に入れて火をかけてしまったら味見はできないし、水分の調整もできないので、鍋の癖やコンロの癖をわかっていないと、完璧な出来にはなりません。

だから、ビリヤニが難しいというのは「その店のその厨房でその鍋を使ってその位置に立って」おいしいビリヤニを作れるのは、専属シェフその人しかいない、という話なのではないかなあ、と思っています。インドなら、引き継ぎも適当そうですし、レシピ化なんてしなさそうですしね。

ということで、自分の家のコンロや鍋の癖を把握することが出来れば、だれでも大体はおいしいビリヤニを作れると思っています。

いや、それでもビリヤニはプロにしか作れない!と主張する方があなたのまわりにいたとしたら、たぶんその人は嘘つきですね。カリスマ美容師だ!と言って囃したてた人か、もしくはカリスマ美容師本人だと思います。

ただ、ビリヤニは水分調整が難しいというのは事実です。ぎりぎりの少なめの水分で、ぎゅっとうまみを濃縮して作りたいから、フライドオニオンなんですね。たぶんそうです。

そんなフライドオニオンですが、南インド屋のビリヤニのレシピでは、4人分で玉ねぎ4分の1個しか使いません。ごめんニック。どうしてかって、米と肉とスパイスで十分おいしいのと、あとは、フライドオニオンを作るのが面倒だからです。油も勿体ないですしね。

突然ですが、北海道の名物といえば、ジンギスカンです。

地下鉄に乗ると、「あ、だれかジンギスカン帰りの人がいる」とわかるくらいに、ジンギスカンは服にも髪にも匂いがつきます。デート前に行ってはいけません。デートでふたりで行けば、一緒にくさくなるので大丈夫です。

カレー屋さんを始めてすぐ、地下鉄に乗っていると、近くに立つ女子高生二人が「なんかカレーくさくない?」と囁きあっています。僕です、まぎれもなく僕です。さっき、フライドオニオンを大量に作って、マトンカレーを作ったんです。

フライドオニオンも、ジンギスカンに負けないくらい、匂いがつきます。頭のてっぺんからつま先まで、香ばしい玉ねぎの香りがします。

鼻から太る、と店員Aは言いますが、本当に胸いっぱいになって嫌になるので、最後の方は、フライドオニオンは、店員Aにやらせて……失礼、やってもらっていました。ありがとう。

だから、レシピにも書いたかもしれませんが、ビリヤニを作るときは、市販のフライドオニオンを使っても良いと思います。もしくは、焼き揚げにした玉ねぎでも十分です。それなら油の処理も楽です。

ということで、ビリヤニにはフライドオニオンが大切で、でもあまり大切でもないから、南インド屋のレシピでざっくりと適当につくってみようぜ、という話でした。


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南インド屋のビリヤニのレシピです。

ハイデラバードっぽいビリヤニです。少なめのお湯で米を茹でるのがポイントです。

バスマティライスについてのコラム

ビリヤニにはバスマティライスを使います。

都内のミールスでも、結構バスマティライスが出てきますが、

それは邪道だよね、という話です。米好きのあなたにおすすめのコラムです。

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ぎゅっと濃縮したうまみのダルバートについて

フライドオニオンこそ使いませんが、ネパールのダルバートは、

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そういうエッセイです。

 

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