いかにしてチリパウダーと青唐辛子を活かすか、これを長々と検討していきます。活かし方を検討するコラム、言い換えると、いかに楽しむかを探るコラムです。まずは、チリパウダーと青唐辛子がどのような味か、特徴を把握します。それから、それぞれの良さを活かす料理を作っていきます。こういう流れです。2月10日13時からの料理教室の内容でもあります。
はじめに
チリパウダーはどんな味?
青唐辛子はどんな味?
チリパウダーと青唐辛子の比較
料理に使おうチリパウダーと青唐辛子
芋とチリパウダー
芋と青唐辛子
チキンとチリパウダー
チキンと青唐辛子
米とチリパウダー
米と青唐辛子
まとめ
はじめに
インド料理において、辛味は、大切な要素です。主に、おもに下記の材料を使って辛味をだします。
・唐辛子
・黒胡椒
・生姜
・マスタードシード
ほかにもありそうな気がしますので、あったら教えてください。玉ねぎを生でかじると辛いので、それを辛味と言えなくもないのですが、料理に加えるときは、大抵火を通すので、除外します。ライタというヨーグルトサラダには生で入りますし、料理で生玉ねぎがつかわれないわけではないのですが、まあ置いておきましょう。
黒胡椒は、インドにおいて、唐辛子より古くから使われていたようです。我々のイメージする、丸い粒の胡椒でなく、ロングペッパーと呼ばれる胡椒がもともとはあったらしいです。ラッサム、という辛酸っぱいスープのようなものは、胡椒がつかわれることが多いですが、唐辛子も使われます。おそらく原型に近いのは、胡椒をつかったラッサムだと思います。ヨーロッパでも黒胡椒は広く使われていますし、かなり人気のあるスパイスなのだと思います。言うまでもありませんね。
マスタードシードは、あの、ソーセージにつけるあれです。独特の風味があります。どんな料理にでも使えるようなものではありません。
生姜も、マスタードシードと同じく、辛味としての用途は限定的です。トッピングとして針生姜のようにして載せることもあります。
そして、唐辛子です。インド料理においてチリパウダーといえば赤唐辛子粉のことです。熟して赤くなった唐辛子の粉末です。熟する前の青い状態で収穫したものが青唐辛子です。チリパウダーは、なんと言っても圧倒的に安いです。私の仕入れているところでは、チリパウダーは、黒胡椒の半分以下の価格です。しかも、辛味を出すのに使う量は、チリパウダーのほうが少量でも辛いので、費用対辛味効果は断然チリパウダーが上です。素晴らしいですね。色も赤くてかわいいし、形状も良いですしね。青唐辛子は、その点、生なので、高くつきますし、入手性が悪いです。年中生えるような気候なら、適当に庭にはやしておいて、ちぎって使うのが良いのだと思いますが、札幌ではそうもいきません。インド料理のレシピをあさったことがある方ならわかると思いますが、青唐辛子は、かなりインド人に愛されています。チリパウダー愛されてるなー、というのはもちろんですが、青唐辛子も愛されています。
ということで、以上が導入です。
チリパウダーはどんな味?
まずは、チリパウダーと青唐辛子を、食べてみましょう。え?食べたくない?仕方ないですね、、チリパウダーはコーンチップにかけて食べてみましょう。
赤唐辛子の味がします。以上。
では面白くないので、工夫をします。パプリカパウダーとカシミールチリパウダー、韓国唐辛子、を並べます。それぞれをなめてみて、いかがでしょうか。
辛味としては、
チリパウダー>カシミールチリ≧韓国唐辛子>パプリカパウダー
という並びになりそうです。
辛味だけじゃない
チリパウダーと言えば、辛味付けのスパイスとして扱われますが、インド料理においては、単なる辛味付けにとどまりません。チリパウダーは、おいしいのです。ためしてガッテンでもやっていたように、唐辛子は、辛味以外の風味があります。そして、その辛味以外の部分と、パプリカは、とても似ていると思います。そして、チリパウダーとパプリカパウダーを混ぜると、かなりカシミールチリになります。韓国唐辛子はやはり、ちょっと風味が違います。個人的には、韓国唐辛子がおいしいと思います。やはり、インド産のチリパウダーやスペイン産のパプリカパウダーとは、品種が違うのか、甘みが強く、香りも、ちょっと和風で、強く香ります。そのままインド料理に放り込むのはどうかと思いますが、おいしいです。チリ好きの皆様は、辛味の少ない韓国唐辛子を買うと、役に立つと思います。
ということで、ざっくりと言って、チリパウダーは、辛味と風味で構成されており、その風味は、パプリカで代替できる、ということです。完全な等号ではつながないでおきます。
チリパウダー = 辛味 + 風味
チリパウダー - 辛味 ≒ 風味 ≒ パプリカパウダー
どんな風味か
怪しい等式から、チリパウダーの風味は、ほぼパプリカパウダーである、という答えが導かれました。個人的に、パプリカパウダーは、インド料理の重要スパイスだと思っています。では、その風味とはどんなものか。これは、文章にするのが非常に難しい部分です。試しに書いてみます。香りと味、どちらの要素もあります。
・青いものを干したような味??
・ちょっと…甘い…味??
・埃っぽいような香り…??
全然だめですね。これはもう参加していただくか、自分の家にある唐辛子をかじってみてください。
ポイントとしては、干したものの味がすることだと思います。乾いた味、と私は表現します。
ここで疑問があるかと思います。風味とは何か。ここでは、
風味 = 味 + 香り
としておきます。そして、チリパウダーのもつ風味の中でもとくに、「香り」を立たせたいときには、ホールチリをつかうことがあります。ホールチリとは、挽いていない赤唐辛子です。鷹の爪です。
唐辛子は、種や胎座のあたりが辛いので、ホールで使えばあんまり辛くないのです。イタリアンでも、最初に、種を抜いたホールチリを炒めることはあります。同じことを考えるのですね。くわしくは、ためしてガッテンをご覧ください。
色々とごちゃごちゃ書きましたが、結論としては、
青唐辛子はどんな味?
続いて青唐辛子です。
青唐辛子をかじりましょう。え?かじりたくない?仕方ないですね、薄切りにしてあげましょう。
冷凍の青唐辛子、スーパーで売っている青唐辛子、ししとう、ピーマン、を並べます。食べてみましょう。タイのピッキーヌも考えたのですが、買ってもほかに使い道がないのでやめました。辛すぎます。
青唐辛子としし唐って、似ていますね。口に入れた瞬間はほぼ同じで、そのあと強烈に辛いのが青唐辛子です。そして、ピーマンは、味が似てはいるのですが、甘みが強い気がします。ししとうと青唐辛子のほうが、苦みや渋み、えぐみがあるようにも思います。
辛味だけじゃない
青唐辛子においても、だいたい、このような図式が成り立ちます。
青唐辛子 = 辛味 +風味
青唐辛子 - 辛味 ≒ 風味 ≒しし唐≒ピーマン
青唐辛子もまた、辛味だけでなく、風味があります。その風味に当たる部分も、ピーマンとししとうでは、また違ってきています。どちらかというと、しし唐のほうが、青唐辛子の味に近い気もします。ピーマンは、また何か違う風味がします。それでは追加の実験として、青唐辛子としし唐を混ぜたもの、青唐辛子とピーマンを混ぜたもの、を比べてみましょう。混ぜてみると、食感以外では差がわかりにくいです。その程度の差なのですね。ざっくり言って、全部、緑っぽい味です。
どんな風味か
では、その風味とは、どんなものか。
チリパウダーに比べると、こちらのほうが表現が楽です。
・青臭い香りがある
・甘みがある
・苦み、渋み、がある
簡単に言うと、野菜の味がする、ということだと思います。当たり前ですね。
ここで一つ、疑問が浮かぶと思います。すなわち、ピーマンにチリパウダーを振りかけたら、青唐辛子の味になるのか、です。やってみましょう。はい、なりませんね。口に入れた瞬間にわかりますね。赤唐辛子は、青唐辛子が熟して赤くなったもので、さらにそれを乾燥させて粉末にしたものが、チリパウダーです。その過程で、風味が変化するものと思われます。生バジルと乾燥バジルの間に、越えられない何かがあるのと一緒ですね。不可逆的な変性が起こるのだと思います。まあ、上の怪しい等式をいじっても、赤唐辛子の風味が余計であることは導けるのですが。
チリパウダーは乾いた味ですが、青唐辛子は、生っぽい味です。青唐辛子は野菜で、チリパウダーは干し野菜。青唐辛子は、フレッシュハーブで、チリパウダーは、ドライハーブ、と言えます。
ごちゃごちゃ書きましたが、まあ、簡単に言うと、
チリパウダーと青唐辛子の比較
それでは、チリパウダーと青唐辛子を比較してみましょう。どのように違うでしょうか。当たり前のことを述べているので、読み飛ばしても構いません。
色が違う
チリパウダーは赤い
青唐辛子は緑色
辛味が違う
チリパウダーは、速い辛さ
青唐辛子は、遅い辛さ
これは説明が必要だと思います。チリパウダーは、口に入れた瞬間に、カッと辛くなります。尖った辛さです。それに比べると、青唐辛子の辛さは、ゆっくりです。青唐辛子は、口に入れてからワンテンポ遅れてきます。こもった辛さになります。辛いカレーを口に含んで、最初は大丈夫だと思っていたら突然辛味が来るのは、おそらく、青唐辛子による辛味です。
風味が違う
チリパウダーは、干したよう乾いた風味
青唐辛子は、青臭いような、生っぽい風味
先ほども触れましたが、やはり風味は違います。
これで、チリパウダーと青唐辛子に対する理解が深まったということにします。ここから先は、その理解を基本として、料理にどのように使っていくかを考えていきます。
料理に使おうチリパウダーと青唐辛子
料理の基本は、加熱だど思います。インド料理は特に、基本的に、生食はしません。火を通します。それも、大抵は、しっかり通します。なので、火を通したときに、チリパウダーと青唐辛子がどうなるかは、重要です。というより、ここまではほぼお遊びで、ここからが本番です。
先に結果を書いてしまいます。加熱に対して、このような反応を示します。
チリパウダー
置いておくだけでは香りは弱い
加熱により、香りが立つ
とくに油で熱したときに芳香がある
煮込みによっては、それほど香りが立たない
辛味は、加熱によって、そこまで変化しない。多少は減じる
青唐辛子
生でも香る
煮込むことで香りが立つ
加熱で香りが飛びやすい
油によって特に香りが立つわけではない
辛味は、加熱によって減じる
加熱すると甘みが出る(ピーマンで顕著)
ほぼ、ドライハーブと生ハーブの違い、と言っても良いと思います。違う部分もありますが、まあそんなもんです。
ダルにチリパウダーを最後に振りかけても、あまり香りません。ダルの中に沈んで行ってそれきりです。油と合わせる必要があります。
逆に、青唐辛子の香りを活かしたいのであれば、最後のほうに加えるか、いっそ、盛りつけてから上に載せます。
青唐辛子の味を強く出したいのであれば、最初に炒めて使うのも良いです。肉のカレーで最初のほうに青唐辛子を炒めるのは、辛さというよりも、青唐辛子の味が欲しいのだと思います。
それでは、ここからは、個別の料理を見ていきます。芋、肉、米、の三つの食材をつかいます。
チリパウダーと青唐辛子、それぞれの特徴を生かして、調理していきます。チャトニもつきます。おまけです。
芋とチリパウダー
チリパウダーを活かすには、油、高温、炒め、というイメージです。もうこれは、roastしかありません。玉ねぎもニンニク生姜も使わずに、シンプルに炒めます。potato roast、もしくは、urulai kilangu varuval(タミル語)です。
じゃがいも——中3個(3cm角に切る)
サラダ油——大さじ4
ホールチリ——3本
チリパウダー——小さじ1
塩——小さじ1
水——大さじ2
①サラダ油を熱して、ホールチリを炒める。チリパウダーと塩も加えてかき混ぜたら、切った芋を加える。油がなじんだら水を加えて蒸し焼きにする。火が通ってきたらふたを開け、好みの具合まで炒める。
レシピとしてはチリパウダーのみにしましたが、パプリカパウダーを加えることで、さらに風味を高めることが可能です。スパイスの使い過ぎに気をつけながら、好みで加減してください。元のレシピはこちらにあります。フェンネルととマスタードシードを加えています。
このレシピでは、芋に火が通るのに時間がかかる関係で、チリパウダーの香りが減じます。なので、あらかじめ芋を下茹でしておく、という手もあります。お好みでどうぞ。
芋と青唐辛子
次は、青唐辛子です。ふつうのサブジ、つまり炒めものでも、大抵青唐辛子が入るので、それで行こうかとも思いましたが、より先鋭化させます。青唐辛子は、火を入れすぎないほうが風味が残ります。なのでここは、和え物にします。ネパールのaloo ko acharです。
じゃがいも——中3個(茹でるか蒸してから切る)
ターメリック——小さじ1/2
ごま——大さじ2(煎ってから摺る)
塩——小さじ1/2
レモン汁——大さじ1
青唐辛子——3本(刻むか、縦長に切る)
サラダ油——大さじ5
フェネグリーク——小さじ1/2
①じゃがいもは皮ごと茹でるか蒸して、皮をむく。大きめに切っておく。ゴマは、少し強めに煎ってから摺る。
②ボールに、薄切りにした玉ねぎ、切った芋、ごま、塩、レモン汁、青唐辛子、ターメリック、を順番に入れる。小鍋にサラダ油を熱して、フェヌグリークを加える。黒くなったら、ボールの中に、じゃっとかける。刻んだコリアンダーリーフを加えて、よく混ぜる。
青唐辛子の風味が強く出た芋料理です。チリパウダーを加えても良いのですが、あえて加えませんでした。お好みでどうぞ。先ほどの炒め物に比べると、水分が多く、生っぽい味がします。やはり、青唐辛子を活かそうと思うと、こういう、水分多めフレッシュ系の料理になります。
チキンとチリパウダー
芋の項では、乾いた感じのほうがチリパウダーが活きる、という例を挙げました。その路線で行くと、次は、チキン炒め、uppu kari にしようかと思ったのですが、それでは芸がありません。今度は、チリの色を活かした、真っ赤なカレーにしてみましょう。チリは、その赤さも、大切な要素です。ゴアのチキンヴィンダルーchicken vindalooです。すべてのヴィンダルーが真っ赤なわけではないですが、赤いと、いかにもvindalooという見た目になります。
鶏モモ肉——2枚(皮をとってぶつ切り)
サラダ油——大さじ4
玉ねぎ——1/2個(みじん切り)
水——300ml
●ペースト用材料
玉ねぎ——1/2個
ニンニク——6かけ
青唐辛子——1本
生姜——ニンニクと同量
酢——大さじ2
塩——大さじ1
砂糖——小さじ1
水——100ml
ターメリック——小さじ1/2
チリパウダー——大さじ1.5
パプリカパウダー——大さじ2
クミン——小さじ2(クミン以下のスパイスは別にミルで挽いておく)
シナモン——小さじ1/2
ブラックペッパー——小さじ1
クローブ——小さじ1/2
スターアニス——ひとかけら
①ペーストを作る。ミキサーに、ペースト用材料をすべて入れてペーストにする。
②鍋にサラダ油を熱して玉ねぎを炒める。きつね色になったら、ペーストを加えて良い香りがするまで炒める。切ったチキンを加えて炒める。好みで水を加えて粘度を調整する。塩、酢、砂糖、チリパウダーを好きなだけ入れて調整する。
パプリカパウダー大活躍です。
赤く、赤くします。これだけ入れれば、それはチリが立つに決まってるよね、という力技です。カシミールチリをお持ちの方はそれを使っても良いです。赤さをふつうのチリパウダーだけで出そうとすると、どこまでも辛くなって、でもあんまり赤くない、ということになり得ます。やっぱりパプリカパウダーは、インド料理好きなら持っていても良いと思います。もしくはいっそ赤色2号です。本場感が出ます。
青唐辛子とチキン
さきほどは、芋と青唐辛子を和えるようにしました。熱を加えすぎないほうが香りが立つからです。同じ要領で、チキンと、刻んだ青唐辛子を炒めれば、間違いなくおいしくなります。ただ、それでは芸がありません。青唐辛子の使い方はほかにもあります。ペーストにすることです。今回は、粘度低めのパラクチキンに、青唐辛子をガツンと効かせます。パラクチキンにありがちな物足りなさを、青唐辛子の風味で補います。加熱することで出る甘みと、それでも残る緑っぽさがほうれん草と合わさり、とてもおいしいです。
鶏モモ肉——2枚
ほうれん草——2束
青唐辛子——8本
しし唐かピーマン——青唐辛子の倍量くらい
サラダ油——1/2cup
にんにく——6かけ(潰すかすりおろす)
生姜——ニンニクと同量
玉ねぎ——1個(細かいみじん切り)
トマト——1個(細かいみじん切り)
レモン汁——小さじ1
ターメリック——小さじ1/2
クミンシード——小さじ2(粉末にする)
チリパウダー——小さじ1
コリアンダーパウダー——小さじ1
カスリメティ——小さじ1/4
塩——小さじ2
水——1cup
①ほうれん草と青唐辛子をペーストにする。完全に滑らかにしても良いし、粗くしても良い。手で細かく切っても良い。お好みでどうぞ。
②鍋にギーを熱して玉ねぎを炒める。色づいたらニンニクと生姜を加えて、香りが出るまで炒める。トマトを加えて、トマトが崩れるまで炒める。パウダースパイスを加えて馴染ませたら、チキンを加えて肉が白っぽくなるまで炒める。
③ほうれん草と青唐辛子のペーストを加えて炒める。レモン汁と水を加えて好みの色になるまで煮る。
ここはココナッツと青唐辛子のペースト、もしくはグリーンペーストでは?と思った方は、インド料理慣れしていますね。残念ながら、僕は、そういうカレーがあまり好きではないのです。まず、チキンにココナッツはあまり合わないと思っています。旨味があるチキンに、まろっとして白いココナッツを合わせると、ちょっと気持ち悪い気がします(感想は個人のものです)。それなら、ハーブやナンプラーでがっちり味を加えたタイのグリーンカレーのほうが好きです。また、コリアンダーリーフやミントと青唐辛子で作ったグリーンペーストは、チキンカレーに使わず、チャトニにしたほうがおいしいです。カレーにすると、薄まって勿体ないです。
ということでパラクチキンでした。個人的には、あまり薄めないほうがおいしいと思います。ねっとりとするくらいが良いです。今回はギーを使いましたが、サラダ油でも良いです。青唐辛子だけでなく、ピーマンやしし唐を放り込むことで、さらに緑っぽい味にすることが可能です。
そして、煮込むことで失われる青唐辛子のフレッシュさを補うため、飾りつけをします。これで完璧です。
チリパウダーと米
チリパウダーと米の組み合わせは、けっこう難しいです。なぜなら、米は水分が多いからです。だからと言って、先ほどのヴィンダルーみたいにしては、スパイスが強すぎます。ご飯にただホールチリをテンパリングすればよい気もしますが、それを料理とは呼びたくないので、もうすこし色を付けます。タマリンドライスです。
炊いたご飯——茶碗二杯くらい
サラダ油——大さじ2
マスタードシード——小さじ1/2
チャナダル——小さじ1
ウラドダル——小さじ1
ピーナッツ——小さじ2
ごま——小さじ2
ホールチリ——3本
チリパウダー——小さじ1/2
タマリンドペースト——大さじ2
塩——小さじ1/2
キビ糖——小さじ1/2
水——大さじ3
①鍋にサラダ油を熱して、マスタードシードを弾けさせる。ダルとナッツ類を順番に加える。きつね色になったら、最後にホールチリを加えて香りを出し、タマリンドペーストと水を加える。塩とキビ糖も加えて、かき混ぜながら煮詰める。火をとろ火にしてからご飯を加える。炒めるのではなく、混ぜるようにする。
ご飯は、できればインディカ米が良いです。ただし、バスマティライスなどの香り米は向きません。これはあくまで地味dishです。あればカレーリーフを加えても良いです。ナッツは、カシューナッツなど、ほかのものでも良いです。
香りを残すために、調理時間は短く、手早く作ってください。ほんとうなら、水を加えないほうが香りが残りやすいのですが、そうすると、ダルが硬くて硬くて歯に悪いので、すこし水を入れています。お好みでどうぞ。
この料理においては、パプリカパウダーでの増強は、あまりのぞめません。粉っぽくなるからです。やはり、米とチリパウダーは難しいですね。
青唐辛子と米
続いて、青唐辛子です。芋の項では、刻んで和えました。チキンには、ペーストにして煮込みました。どちらも、辛味や風味を活かしています。なので、次は、青唐辛子の香りを活かした調理をします。bagara khanaという、塩プラオ、みたいなものです。
バスマティライス——1cup
サラダ油——大さじ3
シナモン——3cm
グリーンカルダモン——5粒
クローブ——8粒
にんにく——1かけ(生姜と一緒に潰しておく。もしくはおろす)
生姜——ニンニクと同量
青唐辛子——3本
塩——小さじ1/2弱
水——350ml
①バスマティライスは、ざっと洗って30分以上浸水させておく
②鍋にサラダ油を熱し、シナモン、クローブ、カルダモン、をシュワシュワさせる。潰したニンニクと生姜を加えて香りが出たら、水と塩、青唐辛子を加えて煮立たたせる。浸水させてから水を切った米を加えて炊く。水が減ってきたら弱火にして5分くらい。味見をしてみて硬ければ蒸らす。柔らかければふたを開けて冷ます。
青唐辛子の香りでうっとりする米料理です。青唐辛子は加熱により香りが飛びやすいので、ペーストにしたり細かく切ったりはしません。そのほうが、香りが残りやすいです。青唐辛子のところを、しし唐に置き換えても良いと思います。単体で食べるものでなく、なにかカレー的なものをかけて食べます。これにヘチマとチャナダルの、dalchaというカレーをかけて食べるのが定番だとかなんとか。水の量は、米の質や浸水の加減でも変わります。米の二倍量の水で炊くのが基本なので、あとはお手持ちのバスマティライスと相談してください。
チリパウダーと青唐辛子とチャトニ
申し訳ないのですが、こちらの記事をご覧ください。あんまりおもしろくないので、ざっくり書きます。
・チャナダルとホールチリを油で炒めてペーストにしたレッドチャトニ
・ココナッツと青唐辛子をペーストにしたココナッツチャトニ
これまでの流れをそのまま汲む、チリパウダー(赤唐辛子)と青唐辛子の活かし方でした。油と合わせて炒めることでチリパウダーは香りが出て、青唐辛子は、生っぽいほうが香りが立つ、ということです。
以上、8品を紹介しました。最後に、短評とともにまとめます。
まとめ
●インド料理においては、辛味を出すものはいくつかある!!
●チリパウダーと青唐辛子は、単なる辛味付けではない!!辛くてうまい!!
チリパウダー = 辛味 + 風味
青唐辛子 = 辛味 + 風味
●チリパウダーと青唐辛子は、それぞれ、調理工程においてちがった特徴を持つ!!
チリパウダーは油で炒めるとおいしい
青唐辛子は煮込む、もしくは生のままでもおいしい
●それらを踏まえて、チリパウダーと青唐辛子を活かした料理を考えていきました。
芋とチリパウダー「potato roast」チリパウダーは、油を使って高温で熱すると香りが出る。だから芋の炒め物にしました。
芋と青唐辛子「aloo ko achar」青唐辛子は加熱時間を短くしたほうが香りが立つので、和え物にしました。
チキンとチリパウダー「chicken vindaloo」チリの風味と色を前面に押し出したゴアの料理です。
チキンと青唐辛子「palak chicken」青唐辛子をペーストにしてほうれん草ペーストの味を引き締めます。最後に生の青唐辛子を載せます。
米とチリパウダー「tamarind rice」タマリンドとチリパウダーでご飯を和えるイメージです。
米と青唐辛子「bagara khana」バスマティライスを、スパイスと青唐辛子とで炊きました。油で炒めるよりも炊くほうが香りが立ちます。
チリパウダーのチャトニ「red chutney」チャナダルとともに油で炒めて香りを出します。
青唐辛子のチャトニ「coconut chutney」ココナッツと合わせて、生のままペーストにし、香りを残します。
以上で、チリパウダーと青唐辛子の使い分けを考える会の内容は終わりです。辛味も大事だけど風味も大事だから、それぞれの風味を活かした調理をしたいよね、というのが結論です。
以降は蛇足です。
レシピを読む力
料理を作るとき、どのレシピを選ぶかで、ほぼ勝負が決まると思っています。僕は職業としてレシピを作っているので、その能力が、ある程度は磨かれています。では、どうやって選んでいるか。できるだけ、意図のわかるレシピを選んでいます。
ちょっと話が飛びます。
チキンカレーやマトンカレーなどは、チリパウダーをガツンときかせることができます。けれど、玉ねぎトマト抜きのサンバルにチリパウダーをガツンと入れるのは、難しいです。ここまで読み進めた方には、なんとなく想像がつくのではないでしょうか。まず、チリパウダーは、ある程度、強い味の料理によく合います。さらに、こういう解釈もできます。チリパウダーを有効に使うには油が必要で、それにともない、塩もうまみも欲しくなってきます。ところが、玉ねぎトマト抜きのサンバルを、塩とうまみが強くなるように作るのは至難です。だから、そういう、あっさり系のサンバルにチリパウダーをたくさん入れると、大抵、チリパウダーが浮いてしまいます。そういうことです。だから、南インド屋のあっさりサンバルのレシピでは、どちらかというと、青唐辛子をきかせています。
また、ノンベジのカレーであれば、辛味の許容量が多く、味も強いので、最初に青唐辛子を炒めて、そのあとチリパウダーを加えて、最後にガラムマサラも、という作り方が成立します。チリパウダーと青唐辛子の併用です。青唐辛子とチリパウダーを延々といじってきた読者諸賢であれば、ドライハーブともいえるチリパウダーと、フレッシュハーブの青唐辛子を併用することに、多少の抵抗を覚えるはずです。もちろん併用はありです。でも、あっさりしたキャベツ炒めには、もしかしてチリパウダーは要らないのではないか?と、感じるはずです。だから、僕は、キャベツのトーレンにチリパウダーを入れるのには、慎重になります。
それが、レシピの意図です。同じ「チリパウダー小さじ1」でも、文脈によって、意味が変わってきます。それらが、違和感なくつながっているレシピは、製作者の意図のわかるレシピです。
そういう、理にかなった構成のレシピは、たぶん信用できます。逆に言うと、読んでいてしっくりこないレシピは、出来上がりもしっくりきません。たとえば、サンバルのレシピを探していて、豆を煮崩していないのにチリパウダーが多くて、しかもトマトや玉ねぎが多いというレシピがあったとします。僕なら、「ふうん、この人はメキシコ料理が好きなのかな。インド人じゃないな多分」と感じます。意図のわからない、もしくは方向性が間違っているレシピだと言えます。(間違い、は、正解、と同じく、存在しないとは思うのですが)
では、材料と分量の羅列を、文脈としてとらえるためには、どうすればよいか、です。
手段の一つは、手当たり次第作ってみることだと思います。そのうちわかるようになります。ただ、それではあまりに前時代的です。時間がかかります。たぶん、近道となるのは、基準をたくさん持つこと、だと思います。適当に羅列してみます。
「青唐辛子とチリパウダーの関係」「うまみと塩味の関係」「粘度と合わせる主食の関係」「豆の煮崩し方」「ターメリックの味の強さ」「苦みと油」「玉ねぎの炒め具合の意味」「トマトの酸味とうまみ」「野菜の硬さと切る大きさ」
たくさんのテーマがあります。それらについて、出来れば体感しながら、自分の中の基準を作るべきだと思います。僕は、「旨味を強くするときは塩味を強くする」「米には粘度が低めのほうが合う」「ターメリックは、色だけではなく強い苦みがある」「苦みは油で中和できる」「豆は煮崩せば煮崩すほど味が強くなる」などと考えています。これは、あくまで僕の考えです。そういう、基準となるものが増えてくると、ただの材料と分量の羅列が、文章に見えてきます。見えてこないこともあります。レシピがダメなのか、僕がダメなのか、どちらもあり得ます。
今回はチリパウダーと青唐辛子について考えました。おそらく、レシピを読む力が上がっているはずです。僕は、今回の資料作りや試作で、上がった気がします。基準が増えた、もしくは増強されたのだと思います。料理教室やコラムを、そのように活用してもらえたら本望です。
僕は、おいしいものが作りたいです。おいしくて、意図のはっきりしたものが作りたいです。豆の煮崩し方も、ターメリックの扱いも、青唐辛子の風味も、すべてが整然とした料理です。きっと、すっきりした、説得力のある味になるはずです。それが僕の理想です。
以上蛇足でした。