さて、豆です。
このタイトルで、「おお!」と思った方はそのまま読み進めてください。あなたはとても良い趣味ですね。
「豆かあ……」という方は、拾い読みで構いませんので、読んでみてください。
このコラムでは、豆が南インド料理でどのように使われているかを、代表的な豆を紹介しながら、述べていきます。
こんな豆があるんだなあ、と軽く読んでいただければ良いかと思います。
まずは、なぜ、豆を使うのか、から始めます。
豆はうまい!肉ほどじゃないけどうまい!
なぜ豆を使うか、それは、豆にタンパク質が含まれ、栄養価が高いからです。そしてうまみも強いです。
豆のカレーは、日本ではあまり馴染みがありません。おそらくは、肉類を忌避する文化があまりなく、魚や肉のうまみの前では、豆の味はパンチに欠けるからだと思います。豆のカレーと、カツカレーなら、それはカツカレーの方が「うまい」と思います。
けれど豆もちゃんと、「うまい」のです。醤油や味噌、豆腐に油揚げ、または呉汁を例として挙げれば良いでしょうか。
インドは文化的に、ベジタリアンの多い国です。そのような文化の中で、人間の味覚に好ましい味が選ばれた結果、豆をふんだんに使ったカレーが発達したのだろうと、インド料理をたくさん作る中で実感しました。実際に、豆がどう伝播したかは知りません。
肉の代わり、というと語弊がありますが、我々日本人の多くが肉を求めるのと近い感覚で、豆を使ってきたのが、いわゆる南インドの地域なのかもしれません。(南インドすべてがベジタリアンの地域という訳ではありません)
ということで、ベジタリアンの多いインドでは、様々な豆が、あの手この手で食べられています。そのごく一部を、南インド屋の使う豆の中から紹介します。料理に使う上での要点にも少し触れます。
豆は、基本の2種とプラス5種類、あとはお好み
インドには何十種類もの豆があるそうですが、初めからそんなにたくさんは必要ありません。まずは2種類を買えば、立派に南インド料理を作ることができます。
●ムングダル moongdal
緑豆の挽き割りです。ダールに使います。
または、煮崩した豆とココナッツを野菜と煮込んだ、「クートゥ」というカレーにも使います。
写真のムングダルは粒が大きく色が薄いですが、もっと粒が小さく、色の濃いものもあります。
傾向としては、色の濃くて小さいほど、煮崩れにくく、青臭い味がします。使いやすいのは、粒が大きいものです。
予め水につけなくても良いと、ものの本には書かれますが、浸水させた方が煮えやすいです。
ダールについてですが、dalは、挽き割りの豆、もしくはその豆を使ったカレー全般を指します。
なので、dal、だけでは、南インド屋の作るような、moongdalのカレーとは限らないのです。
実際、ハイデラバード出身のインド人に南インド屋のダールを食べさせたところ、「ダールといえばレンズ豆じゃないのか?でもこれもうまいな!」と言っていました。インドは広いので、色々なのですね。
これは余談ですが、時々、とくにネパール料理界隈で、ダルカレーという呼び方を耳にすることがあります。間違いではないですが、その場合、dalとcurryは意味が重なっているので、正確な呼称ではありません。ややこしいですね。
moongdalについては以上です。次に、南インドの役、「トゥールダル」についてです。
●トゥールダル toor dal
キマメの挽き割りです。主にサンバルとラッサムに使います。
また、この豆も、「クートゥ」に使われます。他にも、ミックススパイスに使うこともあります。
この豆がないと始まらないのですが、煮崩すのに時間がかかるため、圧力鍋が必要となります。圧力鍋を導入できるかどうか、ここが、南インド料理を始められるどうかどうかの分水嶺です。そういっても過言ではありません。
圧力鍋無しでも、根気があれば煮ることはできますが、面倒なので、いずれ買うことになります。最初に買ってしまいましょう。
通常は、一晩水に浸してから使います。忘れた場合は、圧力鍋であれば、浸さなくても煮ることはできます。
以上の2つが、必須といえる豆です。
スパイスと合わせてぜひ揃えてください。スパイスについてはこちらです。
これから先は、無くても何とかなる、でもあったら楽しい豆です。
●ウラドダル urad dal
ケツルアズキの挽き割りです。主に油で炒めて使います。
ポリヤルでは初めに炒めますし、サンバル、コランブ、またはチャトニ(インドのペーストです)などに、テンパリングして使います。風味づけと、うまみを添加する意味合いがあります。
ウラドダルを煮て食べることは、あまりありません。ネパール料理では煮て食べるみたいですし、ムスリム料理のハリームなんかに入れることもあるみたいです。
ウラドダルには、もう一つの使い道があります。
それは、ティファンです。ワダ、ドーサ、イドゥリ、などの、インドの軽食類の生地になります。挽いて使います。
ただ、ティファンに使うには、圧倒的に、次のウラドホールが優れています。
●ウラドホール urad whole
ケツルアズキの、皮を取ったものです。挽き割りではありません。
この豆の用途は、ほぼティファン一択です。
上の写真のドーナツは、ワダというティファンです。ティファンについての詳細はまた別項にて。
挽き割りのウラドダルと違い、胚芽が含まれているため、挽いて生地にしたときに、びっくりするほどの違いが出ます。理想のティファンは、これなしでは考えられないほどです。
ティファンづくりがうまくいかない方は、まずはこれを試してみてください。
入手性が悪いですが、手間がかかっても、手に入れる価値はあります。
●チャナダル chana dal
ひよこ豆の挽き割りです。
カレーとしての使い道は、クートゥカリ、ダルチャ、等です。味が濃いので、用途が限られます。南インド屋では、ほとんど使いません。
煮崩して、ムングダルやトゥールダルのように、クートゥにもつかいます。
また、ウラドダルと同じように、油で炒めたり、挽いてミックススパイスに使うこともあります。
南インド屋におけるチャナダルの最大の用途は、ポディという豆のふりかけです。軽く炒ったものを、塩、スパイスと合わせて挽いたもので、ご飯にかけて食べます。ご飯にこのポディと、ギーをかけると、背徳の味になります。ポディの作り方も、追って紹介します。
●チャナ chana カラチャナ kala chana
チャナはひよこ豆、カラチャナは、皮付きのひよこ豆です。
チャナは、チャナチャット、チャナスンダル、あとはムスリム系の料理だとわりと使うようですが、南インド屋では全く使わないので、写真がありません。
カラチャナは、クートゥカリくらいにしか使いません。皮は歯ごたえがありますが、滋味があっておいしいのです。
どちらも、一晩水に浸してから茹でます。茹でた後は、そのまま茹で汁に浸しておくと、茹で汁を吸っておいしくなります。
●赤インゲン豆 (レッドロビア) rajima (red lobia)
赤インゲン豆です。インド料理にも使うのですね。
煮るとねっとりとした食感と甘みで、主張の強い豆です。
南インド屋では、カボチャとココナッツミルクで煮る、オーランに使います。
南インド料理での、他の使い道は思い当たりません。北インドや、ネパール料理の豆カレーに使うようです。味が濃い豆なので、しっかりとした味をつけるようです。
こちらも一晩水に浸してから茹でます。
と、ここまで豆を紹介してきましたが、なんということはありません、ムングダルとトゥールダルだけを揃えて頂ければ、さしあたって不自由はしないと思います。余裕があれば、残り5種類も揃えると、楽しくなります。
あとは、マスルダルでも、pigeon peasでも、black eyed beansでも、そこまでいけばあなたは立派な豆好きです。