値上げが喜ばれる時代になるかもしれない、という話

安いのは、嬉しいです。マクドナルドや牛丼戦争に辟易する世相を鑑みると、昔ほどではないのかもしれませんが、それでも、安さの魅力は変わっていません。

それが、もしかしたら、値上げしたら喜ばれるような時代になるかもしれないと、卵を見て考えています。

卵が変わった2016年

目玉焼きが好きで、朝に昼に、よく食べています。卵ってひとケース10個入りなので、ひとりで一度に3個、店員Aの分も焼いたら6個で、あっという間になくなります。

たしか2016年の秋くらいからか、売っている卵が全体的に小さくなって、殻も薄くなりましたよね。PG卵モーニング、という卵が好きでお店でも使っていたのですが、めっきり小さくなって、殻が薄くなって、不揃いになったので、違う銘柄に替えてしまいました。味がばらつくのを、飲食店をやる人は嫌がるものです。

規定重量、何グラムから何グラムまで、というのがケースに書いてあって、ちょっとこれ小さすぎるんじゃないの!?と気色ばんで計ってみると、なんだ、ぎりぎり範囲内。検査責任者の小林さん(?)、ちゃんと仕事していたんですね、すみません。味には関係しないけど、色の薄い卵もちらほら混ざるようになりました(PG卵は茶色い卵なのです)。

きっと飼料が値上がりして、なにかカルシウム的なものを減らしたから殻が薄くなったんですね。検査の重量基準や見た目の基準を緩くして、コストカットをしたんでしょう。今までならはじいていたのも、売ってしまえと。

飼料が値上がりしたのは、たしかニュースでもやっていましたし、それなら卵も値上げすればいいのに、と思いますが、そうはいかないんですね。

「卵はスーパーの安売り度の指標だ」とか何とか言っていました。卵が高いと、「このスーパーは高いスーパーだ!」というイメージを持たれるんですって。そういうことで、値上げはスーパーが嫌がるし、消費者も価格据え置きが好きみたいです。

値段据え置きと消費者心理

そう、価格据え置きって、怪しいと僕は思うのです。値上げが必要ならするべきでしょう。

そこにはきっと、いわゆる消費者心理というやつが働くんですね。

僕はかなり食べるほうで、卵が小さくなってしまったら、普段は3個のところを4個に増やしてしまいます。なので、1個当たりの価格というのはあんまり意味がないのですが、消費者は、卵は一度に1個!1個ったら1個!と決めているのでしょうか。

どんな卵か、味も大きさも気にせず、黄色と白の、「目玉焼きの見た目のもの」であれば、どんなものでも、目玉焼き1個、としてカウントするのでしょうか。まあ、たらこの一粒は卵一個に匹敵するコレステロールだから、たらこは危険なんだ、と主張する方にとっては、卵黄の数は大切ですよね。そういう意味で、卵(卵黄)1個、というのに意味がある、と。

なんだか観念的な話になってきます。我々は、1個の卵、という概念を口に運んでいるのかもしれません。ちょっと噛んでしまえばばらばらになるような、1個なんですけどね。

これはバナナの話の時にも書いたかもしれませんが、高いバナナと安いバナナも、グラム当たりの値段はそんなに変わらないよなあ、と思います。味は高い奴の方が数段美味しいです。卵は、別に大きければ美味しい訳ではありませんが。

そういう、品質の良さとサイズの大きさが、相関関係にあるときは、大きくて高くておいしいものより、小さくて安くてまずいものを、という気持ちもわかるので、それは好みの問題だとは思います。まずいバナナが気にならない人ですね。

いえ、やっぱり思っていません。

きっと安いバナナを選ぶのは、単なる嗜好の問題だけでは無いです。安い方のバナナを買う消費者がみんな「味は数段落ちるがグラム当たりでは少しだけ安いのでこっちの安い方を買おう」と思って買っている訳ではないですよね。

あれです。6990円と7000円なら、実際は10円しか違わないけど、なんだかすごく違って思えるあの現象に近いです。こち亀でも、たしか高いサブマシンガンのモデルガンの話で書いていた気がします。

そういう、ダニエル・カーネマンが好きそうな認知バイアスと、あとは、単純な値札の見た目の安さを求める、思考停止が、このあとに述べる値上げ問題の、根幹なのだと思います。

値上げしたいけど上げられない問題

ここ数年、世界的に食料の価格があがっているとかなんとか。小麦や米や砂糖、肉の指標でも引っ張って来れば正確なのですが、面倒なので調べてみてください。まあ、価格は上がっていると考えて良いと思います。

原材料が高騰すれば、小売りや製造業、飲食店は、今までと同じように売っては儲かりません。トヨタ並みに色々やるにしても、限界はあります。

そんなとき、単純に、値段だけ上げれば良いと思うのですが、そうはしないのですね。(スパイスや肉なんかはそれでも値上げしてますね)

量を減らすか、品質を落とすか、という話になります。ただ値段を上げればよいのに、なかなか、そうはしないのです。

「高くなると困りますよ。安いのがいいわー。生活が苦しくなるものー。」という街頭インタビューが取り上げられます。

こういう、値上げを許さない風潮は、問題だと思います。上げるべきものはあげるべきです。

300歩くらい譲って、量を減らすのは許せます。

もともと10og180円のものが、値上げされたとします。そのとき、100g200円で売るより、90g180円で売った方が消費者は喜ぶんですよね。値段据え置きで、量だけ減らすんですね。実質的な値上げです。

パッと見の値段が安い方が嬉しい気持ちもわかりますので、朝三暮四という言葉はぐっとこらえて呑み込みます。

そもそも食べ物は、口に入れた時の幸せとか、空腹を満たすこととか、そういう効用に対して金を払っているのだから、その度合だとか量に応じて払うべきですよね。だとしたら、100g200円が嫌で、90g180円なら良いってのはおかしくないか?という疑問が湧いてきます。90gより100gの方が、効用はその分大きいんだよ!?

(効用は逓減すると言われたら、何も言えません。量り売りのパンだけ買っていれば良いと思います。一切れ単位で買えるけど見栄を張って二切れ買う昔の魚屋に戻れば良いと思います)

卵は小さくなっていますし、明治の板チョコも小さくなっています。ヨーグルトは減りましたし、ポテチも減っています。枚挙にいとまがありません。飲食店で、あ、これ減った、というのはしょっちゅうです。もう一人前頼むのはさすがに恥ずかしいしお金もかかります。

そう、量を減らすのは、まだ良いのです。けれど、味を落とすのは最悪です。

ロイズのチョコは全体的に、アレになっていますし、ホクノー新札幌店の豚肩切り落としはパサパサになりました。大通りのハンバーグやさんは肉の質を落としてナツメグを加えるようになりましたし、インド料理店のナンは味が落ちました。もしかしてナンミックス?

味を落とすって、ほんとうにほんとうに、最後の手段ですよね。戦時中とか、宇宙食とか、核戦争の後のSFの世界とか、そういうレベルですよね。

それなのに、結構、味を落とす商品が多いのです。値上げしないで、味を落とすのです。

もしも、もしもですよ。

消費者が、量を減らしても値段据え置き!味を落としても良いから値段据え置き!というのを同時に求めるような存在なら、それはもう、何も言えません。

何に価値を見出すかは人それぞれですが、既に述べたように、量を減らしても値段を据え置く人は、口に入れる量に対して対価を払っているのではありません。※1

そしてさらに、消費者が、味を求めているのでもないのなら、あとはもう、「食べた」という事実のみです。その事実のみを求めていることになります。

まさに観念的な話です。胃にある程度の量を入れられるなら、多少量が減っても、味が落ちても、気にならないということです。これは、不毛としか形容しようがありません。

※1 もし口に入れる量に対して対価を払っているなら、100g200円と90g180円は等価になります。グラム当たりの値段を理解する人なら、90g180円を喜ぶはずがありません。

そんな消費者が、本当にいるのでしょうか。信じたくはないですが、値上げを嫌がり、値段据え置きを強くもとめる消費者は、すくなからず、そのようなグロテスクな消費者です。

値上げが喜ばれる社会

だから、値上げをしてくれると、安心します。六花亭は値上げをしました。札幌のjhadpulもしたようですね。

こういう、安ければよい!とにかくパッと見が安ければよい!という考えは、そのうち廃れていくとは思います。

なぜなら、世は本格志向です。そして、人間は進歩します。現在28歳の僕より、50年後の28歳のほうが、きっとずっと賢いはずです。

そんな時代では、「値上げしたこと」が、ステイタスになるのかもしれません。

「この値段で30年頑張ってきました」より、「30年で15回も値上げをして品質を保ってきました」と言うほうが、響きが良い時代です。(機械が我々を労働から解き放つ世界なら、また話は違ってきますが)

まあ、なんだかんだ言って、僕も、やっぱり高いものには二の足をふみます。安いのは嬉しいです。

そんな自分を見るに、やはり社会は、そうそう変わらないのだろうと思います。山本夏彦さんのいうところの、ポケットの中の千円札です。


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なので、値上げをしたくない気持ちも、わかるのです。