4種類のダルを煮て食べて最適解を探るコラム

はじめに

豆、好きですか。僕は好きです。インド料理なら、肉よりもかえって豆の方がおいしく食べられるような気がしています。今回は、ムングダル、トゥールダル、チャナダル、マスルダル、の4つを取り上げます。これらをいかにしておいしく食べるか、を探るコラムです。これはそのまま料理教室の内容でもあります。豆、豆、豆、本稿のどこをとっても豆のことしか書かれていません。つまり地味です。旨いものが食べたければ、肉を炙って、あとはキャンベルのスープでも啜っていればよいものを、それでは飽きたらない、豆好きの皆様に贈るコラムです。

ざっくりと、このような流れになります。

①それぞれのダルを煮て食べてみる

②どのように調理するとそれぞれのダルの良さが引き立つのか検討する

③実際に作る(時間の都合でその場で全部は作れないごめん)

④食べる

ある意味では、料理の構成を、素材の特徴から解釈しよう、という試みかもしれません。ただ、厳密に言うと、コラムのお題からは外れています。ダルの特徴から、料理を導かなければいけないですよね。気にしない気にしない。

料理教室では、最後に、プレーンライス、ココナッツライス、チャパティ、の主食と、副菜として、玉ねぎのアチャール、ポテトのサブジ、エッグマサラ、を加えてターリのようにして食べます。それではまずは、ダルをそれぞれ煮て、味を検討していきます。ところで、ダルdal、とは、挽き割りの豆、もしくはそれを使ったカレー(のようなもの)そのものを指します。材料名であり、料理名でもある、ということですね。

ムングダルMoong dal

ムングダル

ムングダル、moong dalです。緑豆の挽き割りです。

日本でも比較的馴染みのあるダルです(一部界隈に限る)。使いやすいし食べやすいからだと思います。

まずは、柔らかく煮たものを食べてみましょう。味がわかりやすいよう、煮崩れない程度に煮ます。圧力鍋で加圧は2分程度にしました。

煮て食べた印象

・うすい黄色

・癖がすくない味で、油分はまあまあ多い。

・鼻に抜けるような青臭さがある

・ほくっとしている

・繊維が少ないのか細いのか、柔らかい食感。消化に良さそう

・煮崩れやすく、とろとろになる

適した調理法

●ふつうのダル

すこし味が物足りないので、ギーやバターを添加することが多いです。ギーを入れると急においしくなります。さらっと煮ても良いし、しっかり煮崩してもおいしいです。煮崩れやすさを活かして、何種類かのダルを混ぜて作る場合のベースにすることもできます。逆に、サンバルやダルフライなどに単体でつかうと、豆の食感や味が弱く、物足りない仕上がりになる気がします。個人的には、サンバルにつかうと、青臭さが気になる。

ダールのレシピ

●コサンバリ

癖がすくなく柔らかいので、水に浸したものをそのままサラダのようにして食べることができる。他の豆ではなかなかできないと思います。果たして生のダルを食べて大丈夫なのか、という気もしますが、いまのところお腹を壊したことはありません。

●ハルワ

デザートとしての利用例。癖が少なく火が通りやすいため、パンケーキにも出来ます。

水に浸したものを色づくまでギーで炒めて、牛乳を加えてさらに煮て、ぽてっとさせる。砂糖とギーはたっぷり。カルダモンやサフランで風味をつけます。台湾でも、豆花のトッピングにつかわれていました。写真のハルワは、手抜きをして、煮たダルをつかってつくったため、煮崩れてきんとんになっていますが、まあ問題はありません。本来は、水に浸したダルを挽いて、それをギーで色づくまで炒めます。面倒です。

チャナダル Chana dal

チャナダル

チャナダルchana dal。ひよこ豆の挽き割り。

これまたポピュラーなダルです。硬く、煮るのに時間がかかるので、前の晩から水に浸しておきます。圧力鍋での加圧は7分程度。

煮て食べた印象

・色はやや濃い黄色

・とにかく煮崩れにくい。多少は崩れるけれど、とろとろにはならない。ちなみに、完全に煮崩すと、もたっとして重たい味になりおいしくない

・ほくっとする、というより、もくっとするかんじ(感想には個人差があります)

・味が濃く、香りもつよい。大豆クラス。油分も強い。

・甘みのあるような風味で、豆嫌いの人がいかにも嫌いそうな風味(あくまで個人の感想です)

適した調理法

・ふつうのダル

煮崩れにくいので、グレイビーっぽくはなりません。そのため、高粘度というより、豆感のつよいダルになります。チャナダルは味が強いので、トマトや玉ねぎなどを多めに加えた、ダルフライのようなものが適していると思います(正確には、トマト玉ねぎなどに、ダルを加えて作る。逆なのです)。もしトロッとした仕上がりにしたければ、ムングダルなどを混ぜるのが賢明かもしれません。ダルフライにする場合、煮かたは、柔らかくしても堅茹でにしても、どちらもそれぞれ良いかんじです。ちなみに、圧力鍋で長時間加圧し、マッシャーなどでつぶしてポタージュ状にすることも可能ですが、もったりしておいしくありません。まったくおすすめしません。

それではダルフライです。クミンとホールチリをテンパリングし、玉ねぎを色づくまで炒める。ニンニク生姜を香りが出るまで炒めて、トマトも加える。トマトがつぶれてなじんだら、ターメリック、チリパウダー、コリアンダーパウダー、ガラムマサラ、カスリメティ、塩を加える。茹でたチャナダルと水すこしを加えて、好みの水分量に仕上げます。油は多めが基本です。

・ダル炒め

食感の硬さと味の強さを活かして、いっそ炒めものにします。ある意味、粘度がものすごく高いダルです。作り方は色々で、上記のダルのドライバージョンでも良いけれど、ここは差別化を図るためにポリヤル、ココナッツ炒めはいかがでしょうか。チャナダルのポリヤルです。マスタードシードをテンパリングしてから、玉ねぎ、青唐辛子、生姜を炒める。そこに、堅茹でにしたチャナダルを加えて炒め、最後にココナッツをまぶせば出来上がり。チャナダルの癖のある風味も食感も、ポリヤルに向いています。あれ、これはスンダルと呼んだ方が良いのだろうか。

・マサラワダ

おなじく食感の硬さと味の強さ、もくっと感を活かして、揚げ物にする。水に浸したチャナダルをごく粗びきにして、スパイスや玉ねぎなどと混ぜて油で揚げる。ただ、火が通るのに時間がかかる。皮付きのムングダルを同じようにしてマサラワダのようにするとクリスピーになっておいしい。

マスールダルMasoor dal

レンズマメの皮をむいたものです。ピンク色です。かわいいですね。煮たらすぐに茶色になりますけどね。

いまひとつキャラの弱いダルの気がします。煮えるのは早く、圧力鍋でちょっと加圧すればすぐです。圧力鍋が無くても30分とかからず煮えます。レンズマメからの連想で、どうしても貧乏くさいイメージもあります。

煮て食べてみた印象

・薄茶色の見た目はかわいくない

・どことなく和食にもつながるような匂いがする

・繊維っぽい。消化に悪そう。トゥールダルにも似ている食感。

・旨みにも似た、独特の風味がある

・味はそれほど強くない

・味ではないけど、煮えるのがほんとうに早い

適した調理法

・ふつうのダル

癖のある味なので、ある程度の塩、スパイス、トマト玉ねぎ、などを入れたほうが食べやすいと思います。かといって、チャナダルほどには味が強くないので、オイリーなダルフライにすると負けてしまいます。ということで、ここは間をとってダルタドゥカ的なダルにしましょう。スパイス、玉ねぎ、トマトを炒めてダルに加えます。シャバシャバなダルにすると、ダル自体の味があまり強くないので、物足りない味になりやすいため、あまり水っぽくはしません。

・スリランカっぽいダル、パリップ

ココナッツミルクで味の物足りなさを補い、かつ、癖のある風味を気にならなくさせたい、という発想です。ココナッツは偉大ですね。粘度は高め。これをトゥールダルで作ると、ちょっと味が重くなり過ぎますがそういうレシピもあります。

洗ったマスルダルに、刻んだ玉ねぎ、ニンニク、青唐辛子、チリパウダー、ターメリック、ガラムマサラ、シナモン一かけら、クローブ数粒、あればカレーリーフ、それと水を適当に入れて火にかけます。豆が食べられるくらいになったらココナッツミルク(パウダーも可)を加えてもうちょっと煮て、塩で調味して出来上がりです。簡単です。ココナツミルクを入れる時点では、かなり水が少なくなっている位が良いと思います。最終的な粘度は高めで、冷えてきたら固まるくらいでも良いと思います。写真は茶色いですが、もっと黄色い方がそれらしい気がします。

 

トゥールダルToor dal

トゥールダル

トゥールダルです。最近はトゥールダル、と検索すると、キマメ!とgoogleさんが答えてくれるようになりました。おそらくもっとも多くサンバルに使われるダルで、ほかにもちょこちょこ出てくる、南インド頻出ダルです。

煮えるのには時間がかかり、圧力鍋がないと辛いです。浸水させないで煮ると、加圧は10分くらいは必要です。

煮て食べた印象

・色は薄い黄色

・おいしい。これまで食べてきて、全部ちょっと気持ち悪いなあと思っていたけれど、これはそのままでもおいしい。

・繊維は多いけれど、味も強く、思ったよりも油分が強い

・すこし緑っぽい風味がある

・煮崩れても完全なペースト状にはなりにくいが、マスルダルよりはトロトロになる

適した調理法

・ふつうのダル

トゥールダルは、汎用性が高いと思います。最適解を見つけるのが難しいです。さらっと薄くしてもおいしく食べられそうだけれど、やはり味の強さから、ある程度のスパイスや玉ねぎトマトなどを加えたほうが、味はまとまりやすいです。また、ポタージュ状に煮崩しても良いし、形を残しても、それぞれおいしいです。濃厚なダルフライにも対応できるし、あっさり系のダルでもおいしいです。大体どうやってもおいしい、とも言えます。今回は、トゥールダルでないと難しい、あんまり煮崩れてないけどちゃんと味がする、さらっと系のダルタドゥカにします。最適解を探る、と言いながら、ほかとの兼ね合いで作るものをきめていますね。ダル原理主義者からの批判は覚悟しています。

フライパンに油を熱して、マスタードシードとクミンを弾けさせます。玉ねぎと青唐辛子をさっと炒めたらニンニクとを少し加えます。香りが出たら、ターメリック、チリパウダー、を加えて馴染ませて、刻んだトマトを加えます。トマトが煮崩れたら、煮崩れない程度に煮たトゥールダルにじゃっとかけます。粘度は低めで、さらっとしたかんじにします。マスルダルよりも水っぽくなるけれど、でもちゃんと味がするはずです。

・サンバル

ある程度の滑らかさと味の強さを併せ持っているので、野菜やタマリンド、サンバルパウダーを加えても料理としてまとまりやすいです。いや、ほんとに優秀ですねトゥールダル。そして、ダルの特徴からサンバルという料理を導出するのは極めて難しく、この企画の泣き所です。だってトゥールダルはどうやってもおいしいんだもの。

・カッティダル

カッティダル、というのは、酸っぱいダルのことです。サンバルから色々引いたものです。マスルダルでも作れますが、おいしいのはトゥールダルだと思います。トゥールダルは、味が強く若干重たいです。なので、酸味を加えたくなります。そういう発想で、カッティダルになります。

トゥールダル、ターメリック、チリパウダー、トマト、を圧力鍋で煮て、好みの具合に煮崩したら、タマリンドと塩で調味し、最後にクミンとホールチリをテンパリングします。これは、カッティダルの中でも相当にシンプルな作り方です。

 

まとめ

見切り発車の企画でしたが、思った以上に、僕の知っている料理が、ちゃんとダルの特徴に適ったものになっているな、という印象でした。当たり前と言えば当たり前ですけどね。

ムングダルに酸味を入れる調理法は、あるとは思うけどそこまでポピュラーじゃないのは、もしかしたらムングダルの特徴によるものかもしれない、ということです。または、レストランでダルフライを頼んだら、おそらくマスルダル100%の物は出てこないけど、チャナダルは大体つかわれていそうだな、という具合ですね。

今回、調理法として挙げたのは、あくまで一例です。もちろん、煮て食べた印象も、私個人の感想で、それをもとに私の狭い知識の範囲内で調理法を探しました。違う国の料理に詳しい方であれば、もっと違う調理法を挙げるだろうと思います。

ご質問などあればコメントやメッセージ、知っているなら電話でもメールでも、変なものでなければお答えすると思います。どうぞよろしくお願い致します。みなさまのダル生活が豊かなものとなりますように。

お借りした画像です。最後はこんな風になりました。さらにココナッツライスとチャパティがつきました。