これこそミニマム料理だと思う「目玉焼きごはん」

むかし市営団地に住んでいた時のこと。お風呂のない部屋。お隣は、よく人の訪ねてくる家だった。おくさーん、お金返してもらうよー、おくさーん、とよく男の人が戸を叩いていた。人気者。間違いない。その奥さんがスーパーで、小豆缶を買っていた。そのまま食べるのかな。かなりのミニマリストだな、とはさすがに当時は思わなかったけど、目玉焼きをご飯に乗せて食べるのも、けっこうなミニマムだと思う。キャベツの葉をむしって食べたり、砂糖をなめて水を飲んだり、そういうのには負けるとしても、目玉焼きゴハンは、料理として、最低ラインくらい。一応ご飯を炊く。一応火と鍋を使う。そのあたりが、審判の旗が上がるライン。お茶漬けのものをご飯に振りかけて食べるのはアウト。そういうこと。使う材料としても、肉よりは卵が楽。腐らないし、小分けされている。にわとりが体内で小分けしてくれている。親切。だから肉を焼いてご飯に乗っけるより、目玉焼きは一歩後退している。いや、一歩分、研ぎ澄まされている。そんな目玉焼きごはんを作ろう。

たまごは、イオンの薄味たまごは、勧めない。あれはあれで、安くて味が薄くて食べやすいけど。まあ、わかるよね。ちょっと高いほうを買う。ところで有精卵って、ちょっと気持ち悪いかんじがしない? 割ったら育ってたらどうしよう、と四抹くらいの不安がある。あと、そういうのは、白身がグリグリするくらい硬くてちょっと苦手。現代っ子なもので。卵はそんな感じ。まあだいたい何でも良い気がする。

鍋。鍋のこと。ニトリのスキレットが好き。厚みがあって、表面の加工のおかげで、まずくっつかない。そして安い。雑に使える。これを薄煙が出るくらいに熱する。そこに多めの油を入れる。多めの油。けちっちゃいけない油。鉄と油が高温で出会うとよく結合するらしくて、こうしておくとそのあとくっつかない。油で温度が下がるはずだから、油を入れてから、もうちょっと加熱する。テフロン鍋を熱すると煙が出て、小鳥が死ぬとか蝶が落ちるとか、そういう話があったね。油だと、むせるくらいで済む。さて卵を入れよう。でも、あっつい鍋に、卵を割り入れてはいけない。二重の意味でいけない。

まず、ちょっと鍋の温度を下げる。これはたぶんくっつき防止。そのほうがうまくいく。そして、卵は一度、ボウルか何かに割って入れる。これは大事。死んだお兄さんとの約束。たのむぞ、これは、とっても大切なんだ。目玉焼きは卵3個からが基本だから、それを逐次投入すると、たまご間でばらつきが出る。加熱時間に差が出る。しかも、一個目が薄く広がり、その上に覆いかぶさるように、二個目、三個目、が重なると、きれいに焼けない。そしてもし、殻が混じってしまったとき、その殻は、あっという間に白濁したたんぱくに飲み込まれてしまう。もう救えない。だから、必ず、ボウルに入れるんだ。たのんだぞ。洗い物が増えるけど我慢してくれ。

焼き方は、好みもあると思う。黄身に白い膜が張るのが嫌なら、蓋はせず、時間をかけて焼けばよいと思う。僕はさっさと焼きたい。蓋をする。水は入れない。冷蔵庫に入れていた卵なら長め、常温なら、すぐに焼ける。黄身がさあっと流れるくらいに生っぽいのとか、表面の白身が ケーキのナパージュみたく透明なのも好きじゃない。黄身は、熱は入っているけど固まっていないくらい。白身の底面は、ちょっとカリッと部分があっても良い。メイラード、メイラード。

ごはんはちょっと硬めが良い。昨日の冷たいご飯でも良い。 卵に対してご飯が多いとリッチじゃない。お金持ちはリッチに食べる。だから卵多め。 そこに目玉焼きをそーっとのせる。醤油をかける前に、黄身のところに、ちょっと塩を落とす。フランスのおしゃれ高価な塩がおいしい。フルールドセルか。なんかわかんないけどおいしい。そして醤油ちらちら。これで良い。物足りなければ、サンバルパウダー(南インド屋謹製)がベストマッチ。つまり宣伝。七味唐辛子なんかも良いと思う。

目玉焼きご飯が料理としてミニマムなら、食事としてのミニマムには、汁物が欲しい。みそ汁が自然か。手作りでなく、インスタントが良い。こういう時は安い味が合う。永谷園とかそういうの。僕はスパイス好きだから、ラッサム(南インド屋謹製)を合わせる。お湯を注ぐだけなのはみそ汁と一緒。スパイシーで酸っぱくておいしい。これでミニマムの食卓。