雑記2024/04/23 客に期待をしない生ケーキ

*客に期待をしない生ケーキ

六花亭の商品はどれもおいしい。マルセイバターサンドが飛び抜けて有名で、二番目に来るのはホワイトチョコレートか苺入りチョコか大平原かと思うけど、名前が売れていないものにもおいしいものがたくさんある。適当に挙げると、百歳(ももとせと読む)は完璧においしくてイギリス人も喜びそうな味だし、少し前に売っていた水羊羹も、行ったことないけど料亭の水菓子として採用されそうなそうな味で驚いた。霜だたみのパイ生地の食感はほろっとほどけるようなハイレベルで、大平原は百回食べてもおいしい。そういう、有名ではないお菓子こそが六花亭の六花亭らしさを体現していて、実はマルセイバターサンドは六花亭の中では、六花亭らしくない商品。派手じゃないしちょっとダサいけどちゃんとおいしいのが六花亭のお菓子であり、マルセイバターサンドは、一口目からはっきりおいしくてインパクトが強い。そして、お菓子として完成度が高いかと聞かれたら言葉を濁したくなる出来だと思う。僕は、マルセイバターサンドを何度食べても、「おいしいけど釈然としないな。何を狙っているのかよくわからない、おいしいけど」という感想になる。六花亭は、派手さやインパクトの強さはないけど、原価をかけて、まともに作って、しかも安い、そういう、実直と言って良いお菓子作りをしている素晴らしい会社だと思う。どう考えても、良い意味でワンマンの社長が引っ張っている味がする。誰か一人の強いこだわりがないと実現しない味。ある意味で最適化がされていない、大多数の客が理解できるかわからないレベルのお菓子を出しているのが六花亭で、そこには、「お菓子はこうあるべき」という社長の強い意志を感じる。客へのピュアな信頼だけでそれを実現しているとは思えないけど、どこかに、このおいしさをわかってほしい、わかってくれるはずだ、という願いを感じる。さて、話は変わって生ケーキ。六花亭は生ケーキも出している。発送はしていないから店舗で買うしかなくて、デパートやスーパーに入っている店舗では売っていない(何年か前にカップケーキをやっていて毎日のように買ったけど2年で販売中止になった)から、直営店で買うしかない。六花亭の生ケーキはおいしいし値段も安いのだけど、僕にはどうしても、「生ケーキは甘くて柔らかければそれでええんやろ?みんなそれで喜ぶんやろ?」という諦めがあるように思えて仕方ない。それとも、所詮生ケーキは生ケーキ、焼き菓子には完成度で勝てないという考えか。いずれにせよ、他の商品に見られる強いこだわりや思想を生ケーキには感じない。確かに生ケーキは甘くて柔らかければおいしいし、生ケーキよりバターケーキの方がおいしいと僕は思う。生ケーキ食べたいなら生クリーム舐めてればいいんじゃない?と思うこともある。だから、生ケーキは甘くて柔らかければそれで良いのだし、客も喜ぶのだからそれで良い、という考えもわかる。わかる、と言っても直接話を聞いたわけではないけど、僕の脳内で六村花夫(架空の六花亭社長)が確かにそう言っている。それでも、六花亭なら、もっと違う生ケーキを北海道にもたらしてくれるのではないかと期待してしまう。赤坂にある、しろたえという洋菓子店のケーキを食べて、こういうちょっと古臭いけどおいしいケーキって札幌にないよなあと思った。しろたえのチーズケーキもミルフィーユもおいしかった。六花亭なら、しろたえのケーキを出せるのではないか。北海道でそれをやるなら六花亭ではないか。最初は客も戸惑うかもしれないけど、そのうちその良さに気がつくのではないか。他の商品でしているように、生ケーキにおいても、客にもう少し期待をしても良いのではないか。そう思った。