インド料理と言えば、漠然と、手で食べるもの、という印象があるかと思います。
葉っぱの前に座って、片手でカレーを口に運ぶ図は、一度くらいどこかで見たことはありませんか。それはまさに、南インドの風景です。そのイメージの中の男性は、たぶん頭にターバンを巻いていて、ひげも蓄えていて、もしかすると白い服を着ているかもしれませんね。怪しい音楽も流れています。もちろん豚肉は食べません。
すみません。これはイメージが混ざっています。ハラキリゲイシャの世界です。みんな五重塔に住んでいると思っている類の話です。
おそらく、そのイメージの男性は、ムスリムです。手で食べる南インドの男性は、どちらかと言うと、ヒンディーです。まあ、ざっくりいうと、インド人で合ってるんですけどね。
お客さんとして来ていたインド人は、友達同士だと手で食べて、デートの時はスプーンで食べているのを目撃しました。たまたまかもしれませんが、わかるような気もします。いや、ほんとにインド人は上手ですね。日本人のお客さんでも、手で食べる方はいらっしゃるのですが、やはり年季が違うのか、流れるようなあの動作は、なかなか真似できないようです。
そもそもなんで手で食べるの、というと、浄・不浄の考え方があるらしいです。
いや、そもそも、ヨーロッパでも、ナイフフォークで食べるようになったのは、ここ数百年らしいので、むしろ手で食べるほうが普通と言える気もしますが、インドの手食文化は、浄・不浄で語られることが多い印象です。あ、中国は昔から箸ですね。さすが歴史上の先進国。
僕は詳しくはないのですが、ざっくり言うと、綺麗に洗った自分の手が一番綺麗!という考え方だと思います。なんとなく、わかるような気もしますね。
それともう一つ、手で食べるとおいしいのです。そんな気がします。
まずは、手を念入りに洗います。よーく洗います。インド人の客さんは、団体で来ると、まずはトイレに行列します。手を洗っているんですね。そわそわしながら、列を作っています。この時点で、肌の弱い僕は、手が荒れそうです。
手で上手に食べるポイントとしては、ただひとつ、カレーをかけすぎない、だと思います。ご飯たっぷりでカレー少な目に盛り付けるのがインド風、ということをすでに述べましたが、それはとくに、手で食べるときには重要です。
それと、野菜を小さくカットするのも、手で食べやすくするためだと思います。あるレシピ本では、フィッシュカレーの魚を小さく切るのは、貧しい家庭が一匹の魚をみんなで分けるためだ、と書いてありましたが、そ、そうなの?というかんじです。たしかに、お肉は大きい方が高級感があるので、その逆ということですね。
ミールスの食べ方は人それぞれです。バッシャバシャにして食べても良いのですが、一応作る方としては、手でまとめられる程度のバランスでおいしくなるように作ってはいます。インド人と日本人では、旨みや塩味に対する感覚が違いそうなので一概には言えないのですが、とにかく、手で食べるなら、カレーは少なめです。
それと、親指、人差し指、中指、の三本で食べる、というのが一応のルールらしいのですが、僕は、守っている人を見たことがありません。
あれですかね、箸を染めちゃいけない、というのと近いかもしれません。包丁無宿のマナー勝負でも、作法に精通したひとたちが、最後に、箸が濡れている!と因縁つけられて、双方失格になっていましたよね。それくらい、みんな守っていないのかもしれません。
まずはご飯にダルをかけて、適当に混ぜてみます。インド人は、本当に揉みこむようにしますが、そこはお好みです。人差し指、中指、薬指の三本ですくうようにして、口元に運んだら、親指で口の中に押し込みます。そのうち、動画を作ってアップするかもしれません。
ポリヤルやクートゥなどをそのまま口に運ぶときは、スプーンよりも、手でつまんだ方がすばやく食べられます。
ダルを混ぜてあるところに、さらにポリヤルなどをちょっとずつ足して、混ぜ込みます。ダルが無くなったら、またダルをかけても良いし、サンバルをかけて、よりスパイシーな方向に進むも良しです。順番としては、はじめに優しい味のダルを食べて、次にサンバル、というのがお勧めです。
手で食べると、指さきで、直に感触や温度がわかるので、口に入れた時に、脳においしさが響くような気がします。多幸感とまで言ったら大袈裟でしょうか。手で食べるのに慣れると、スプーンをつかうのが面倒になってきます。そうなればあなたは、立派なインド人です。
食べ終わると、指先が黄色くなっていることもあるので、やはり日本人同士のデートには向きません。
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南インド屋の考える、南インドのミールスの、狭義の定義です。
手を染めるのはターメリックです。黄色いです。
電車に乗っていて、指先が黄色いだけなら、「あ、きっと絵描きなんだ。すてき!」と好意的に受け止められることもありますが、フライドオニオンの匂いは強烈で、「うわ、カレーくさっ!」と女子高生に言われます。