南インドの「ミールス」とはどんな食べ物か

南インドのミールス

ミールスの定義をすると、

『ミールスとは、主に南インドで供される、米を主食とした、複数のカレーや副菜を伴った定食である』

ということになります。以上、本稿終わり、ではあんまりなのでもうすこし続けます。 

これより先は、この定義をもとに、すこしだけ掘り下げていきますので、お付き合いください。掘り下げるということは、インド料理にいくらでもある例外を多少無視するということでもあります。例外の集合がインド料理とも言えます。どうかお気をつけください。

南インド、とは主に6州を指します

まず、南インドとはどこかというと、一般的には、アーンドラ・プラデーシュ州、テランガナ州、ゴア州、カルナータカ州、ケララ州、タミル・ナードゥ州、あたりを指して言うようです。IT都市で有名なハイデラバード、バンガロール、ヨガをする方なら耳にしたことがある筈のマイソール、新丸子にあるインド料理店、「マドラスミールス」のマドラス(いまはチェンナイと言います)、風光明媚なコーチン、などの都市があります。南インドとはこのあたりです

ただ、南インド、という括りは非常に荒っぽいものです。「関西人は……」というくらいに無理があります。

南インド屋では主に、カルナータカ州、タミル・ナードゥ州、ケララ州、の料理を提供しています。というのも、これらの地域の料理が、あっさりとして米に合うようなものが多いからです。

※2017年2月10日追記

上記6州と書きましたが、ミールスに使う狭義の定義としては、ゴア州を除いた5州のほうが良いかもしれません。ゴアの料理は、シャクティやビンダルーなど、ポルトガルの影響を受けたものがあり、ほかの州とは一線を画しているからです。

ということで、話は、主食である米に移っていきます。

主食は米です

ミールスとは、カレーや副菜で、がつがつ米を食べるものです。

というと、「ダバインディア」、「アーンドラダイニング」、という東京の有名店で食事をなさった方なら、ミールスで米以外のものが出てきたぞ、とおっしゃることでしょう。

その通りです。プーリという揚げパンや、チャパティという薄焼きパンです。アーンドラ系列のチャパティは柔らかくておいしいですよね。

では、ミールスにはそれらの小麦ものが必ず含まれるか、というと、そうではありません。つまり、必須の要素ではありませんし、詳しくはありませんが、小麦ものが含まれるかどうかには地域性もあるかもしれません。加えて、前述のレストランは、日本というミールスに馴染みのない国で、ミールスを供することを商売としてやっている、という点を考慮する必要があります。そのあたりは、「食べるそして考える」という素敵なブログがありますので、そちらを読んでみてください。

ざっくりいうと、南インドではたくさん米を食べる。そして、ミールスは米、なのです。

とすると、なぜ米なのか?という疑問が当然のように出てきます。

残念ながらそれは本稿の範疇を越えてしまいます。気候や文化、世界史的位置づけ、これらを語ることは、インドそのものに手を突っ込むことになり、とても手に負えません。

次に、ミールスにはどのような米か、という点を述べていきます。

インド料理に詳しい方であれば、バスマティライスを真っ先に挙げるかと思います。バスマティライスは香りの強い、タイ米でいうジャスミンライスのような、aromatic riceです。このような米がミールスに使われることもありますが、一般的ではありません。南インド屋では、カオカオという、香りの弱いインディカ米をつかっています。インドのそこらのミールス屋さんでも、ポンニライス、ソナマスリライス、などの、比較的香りの弱いものをつかっているようです。南インド屋や、そこらのミールス屋さんでバスマティライスを使わない理由については、また別項で述べます。

さて、これらの米はいずれも、パラパラとしている点では共通しています。

主食であるコメがパラパラしているとなると、自然と、それに合わせるカレーや副菜の特徴も決まってきます。

ということで、最後に、ミールスにはどんなカレーや副菜がつくか、に話がたどり着きました。

あっさりとした豆や野菜のカレー、それに副菜

ここまでをまとめると、ミールスの狭義の定義は、

「ミールスとは、主に6州からなる南インドで供される、香りの弱いぱらぱらとした米を主食とした、複数のカレーや副菜を伴った定食である』。

となります。簡単ですね。

ここで想像してほしいのですが、ぱらぱらとした米に、バターチキンは合うでしょうか。

おそらくは合わないと納得していただけると思います。それでは、どのようなものがその米に合うか、です。

南インド屋を例にとって、カレーや副菜の特徴を述べていきます。

南インドのミールス

南インド屋のある日のミールス

左端から時計回りに

・オーラン(南瓜と豆のココナッツミルク煮)

・ダル(緑豆のカレー)

・サンバル(豆と野菜の、少しスパイシーで酸味のあるカレー)

・ラッサム(酸っぱしょっぱいスープ)

・冬瓜のプリセリ(ヨーグルトとココナッツのカレー)

・ポテトロースト(ポテトの炒めもの)

・ヨーグルト

・バナナとココナツのデザート

円いのが、豆のおせんべいであるパパドで、その裏にマンゴーピクルスが隠れています。パパドは油分を補い、マンゴーピクルスで塩味を調整できるようになっています。

ミールスといえば何がついてくるか、つまり定番というと、ダル、サンバル、ラッサム、ポリヤル(野菜を炒めたもの)、パパド、あたりでしょうか。どれかが欠けることは珍しくありません。ですが、この中のどれも入っていない、ということはありません。味噌汁もお吸い物も付かない定食を探すのが難しいようなものです。

 

2017/09/11追記

地域によって、定番となるものは違ってきますし、同じようなものでも呼称は違うこともあります。と言うより、言語がそもそも違いますしね。あくまでざっくりと、一般的に、ダルのようなもの、サンバルのようなもの、ラッサムのようなもの、ポリヤルのようなもの、などがミールスとして出てくることが多い、ということです。

 

上記のカレーや副菜に特徴的なのは、

・豆と野菜をたくさん使っている

・塩味がきつくない

・うまみが濃すぎない

・酸味がある

・脂肪分が少ない

・ココナッツをつかっている

言い換えると、「豆と野菜をつかった、あっさりとしたカレーや副菜」なのです。これらの特徴は、そのまま、パラパラのお米と食べておいしい特徴でもあります。ただ、ここで注意して欲しいのは、あくまで「狭義のミールス」の特徴です。味がきつくて油っぽいミールスだっていくらでもあります。

これでやっと、ミールスの定義が完成しました。ミールスの狭義の定義を載せて、本稿の結びとします。

「ミールスとは、主に6州からなる南インドで供される、香りの弱いぱらぱらとした米を主食とした、豆・野菜・ココナッツをつかった、あっさりとした複数のカレーや副菜を伴った定食である』