ビリヤニのレシピの長い注釈、またはカッチビリヤニ論

本稿では「いかにしておいしいビリヤニを作るか」を論じていきます。

先日投稿したレシピの、長い注釈であり、同時に、ある種のカッチビリヤニ論になっています。本稿では、たびたびレシピからの引用をしますので、レシピを未読の方は、ざっと目を通して頂けると、読みやすくなるかもしれません。

※2018/6/15追記

最新のレシピはこちらです。細かい変更がいろいろあります。

本稿の結論としては、「レシピの通りに作ったほうが良いです」となりますが、さらに一歩進むと、「レシピの通りに作らないでください」となります。なぜかというと、ビリヤニにおいては、米の茹で加減、水分調整、そして火の回り方が重要であり、どれも、環境により大きく変わるからです。

それでは、まずは、ビリヤニとは何か?という話からはじめます。

そもそも、ビリヤニとは

詳しい説明はwikipediaを見て頂けると助かります。要は、カレー味の炊き込みご飯です。

wikipediaの分類に倣うと、パッキビリヤニ、カッチビリヤニ、生米から炊くビリヤニ、と三つに大別されます。

典型的なパッキビリヤニでは、まずは肉のカレーを作り、そのカレーと半茹での米を層状に重ねて炊き上げます。

カッチビリヤニは、マリネした肉を鍋底に敷いて、その上に半茹での米を重ねて炊きます。

生米から作るときは、生米とカレーを混ぜて、そのまま炊きます。

どれも出来上がりは違います。この中でも、とくにカッチビリヤニに焦点を当てます。

それでは、おいしいカッチビリヤニとはどういうものか、という定義をしていきます。

おいしいカッチビリヤニとは

おいしいカッチビリヤニは、おおよそ下記のような条件を満たすものと言ってよいかと思います。

  1. 米が良い具合に炊けている
  2. 肉に良い具合に火が通っている
  3. ビリヤニ全体に、一体感があり、かつまばらである

当たり前のことですね。これではあんまり抽象的なので、順番に見ていきます。正直に言って、あまり面白い部分では無いので、読み飛ばしてもらっても構いません。

1.米が良い具合に炊けている、とはどういう状態か

米の状態として例を挙げていきます。

引用元occultec.com/misc/740

これはおそらく、チャーハン式のビリヤニです。これはこれでおいしいのですが、カレーを足して炒めたことにより、水分が多く、米がべチャッとしています。バスマティライスの良さである、ふわ、ぱら、がまったく活かされていません。この例は極端としても、肉の近くではとくに、水分が多いため、米が煮崩れやすくなります。肉に接した部分まで、良い具合でないといけません

引用元http://www.bawarchi.com/recipe/hyderabadi-biryani-recipe-oetppTgjedhbb.html

2つ目は、よく見ると、米がぽそぽそしています。米の茹で方が足りなかったか、蒸気がしっかりと回らなかったのだと思います。なんとなく、食欲をそそりません。日本米を炊くときでも、火がうまく回らないと、こういうぽそぽそした風になります。

引用元https://www.youtube.com/watch?v=iJUdcbCoIcA

3つ目が、お手本となる良い状態です。有名なvahchefです。お米が良く伸びて、ふわっとしていそうです。かつ、水の量が適切で、べちゃっとしていません。

まとめると、良い米の状態とは、下記のような状態です。

  1. 良く伸びて、ふわっとしている
  2. 一粒一粒が、くっつかずに独立している
  3. 煮崩れていない(とくに肉に近く水分が多い部分)

(補注1)ビリヤニが面倒な作り方をする理由

ここで、ビリヤニは、なぜこわざわざ面倒な作り方をするのか、という疑問に、ひとつの答えを与えることができます。つまり、なんでカレーライスを混ぜたものじゃダメなの?という疑問です。

ふつうに炊いた米とカレー(もしくはマリネした肉)を混ぜると、カレーの含む水分のせいで、水分が過剰になり、べチャッとしてしまいます。それを防ぎ、カレー味のご飯をうまく炊くためには、途中まで火を通した米をカレーと合わせて、カレーの水分で、米を良い具合まで炊くのです。

これは、ビリヤニの起源を説明するものではありません。実は、なんとかおばさんが適当に作っておいしかった方法が伝わったのかもしれません。ここで言いたいのは、ビリヤニの調理法を、米の扱い方で解釈することができる、という話です。

 

それでは次に、肉について考えてみましょう。

2.肉に良い具合に火が通っている、とはどういう状態か

ここについては、さらっといきます。生でなく、かつ固くなっていなければ、それで良いです。

駄目な例として、火を通しすぎた南インド屋のビリヤニを挙げておきます。

いかがでしょうか。肉が堅そうで、米もボロボロで、いかにも失敗作ですね。

(補注その2)バッキビリヤニとカッチビリヤニの違い

パッキビリヤニよりカッチビリヤニの方が好きな理由が、ここにあります。

パッキビリヤニは、あらかじめチキンカレーを作って、それをもう一度炊き込むので、肉はどうしても硬くなります。そもそも、グレイビーに味が移って、ぱさぱさになってしまいがちです。その点、マリネした肉を弱火で調理するカッチビリヤニは、肉に火が通りすぎることもなく、肉自体に味が残ります。これは、次の論点にもつながります。

3.一体感があり、かつまばら、とはどういう状態か

一体感があり、かつ、まばら、とは、このような状態です。

・米に肉の味が染み込んでいる(米と肉の一体感)

・肉と米が、違う味になっている(米と肉の味のまばらさ)

・肉の味の染みている部分と、染みていない白い米の部分がある(米の中での味のまばらさ)

これは、普通のカッチビリヤニの作り方であれば、満たせるものです。順番に見ていきます。

米に肉の味が染みている

カッチビリヤニでは、生肉を鍋底に敷き詰めてその上に米を重ねて調理します。

なので、肉汁が米に染みていき、味に一体感が生まれます。白いご飯に、焼いたチキンを載せても一体感がないのです。

それなら、生米から作るビリヤニのように、初めから米とカレーを混ぜてしまえば、よく味が染みるじゃないか、というご指摘を受けそうです。その通りだと思います。生米ビリヤニは、よく味が染みていておいしいのですが、染み込みすぎて、ビリヤニ全体が同じ味になってしまっているのです。

なので、カッチビリヤニでは、一体感だけでなく、まばらさを必要とします。

肉と米が違う味になっている(米と肉のまばらさ)

カッチビリヤニでは、肉と米の味が近すぎてはいけません。これは、パッキビリヤニや生米から作るビリヤニと対比するとわかりやすいです。

パッキビリヤニと生米からつくるビリヤニ、どちらもはじめにチキンカレーを作り、それから、肉の味が染み出たグレイビーで米を炊きます。これにより、米の味が、カッチビリヤニより濃くなります。その分、チキンの味は抜けています。当たり前ですね。ある意味、チキンを出汁のようにつかっているのです。

最終的に出来上がったビリヤニにおいて、味がしっかりついた米と、味の抜けたチキンでは、味が近くなって、まばらさが生まれません。とくに、生米から作るビリヤニの場合は、それが顕著です。(生米から作るビリヤニでは、食べるときにさらにチキンカレーをかけて食べることも多いみたいです。)

言い換えると、カッチビリヤニは、米に肉の味を移しつつ、チキンにも、しっかり具としての存在感をもとめるビリヤニだと言うことができます。

そうして、うっすら味のついた米と、しっかり味の残ったチキンを混ぜ合わせて食べることで、味に濃淡が生まれ、いくらでも食べられるうまいカッチビリヤニになるのです。

そしてもう一つ、カッチビリヤニならではの見た目の特徴がありますので、それに触れます。

肉の味のしみている部分と、しみていない白い米の部分がある

理想は、炊いた鍋を縦に半分にした断面が、グラデーションになることです。

肉の色、肉に触れた茶色い米、触れていない白い米、と三色によって構成されるグラデーションです。これがそのまま、味の濃淡になります。だから、食べた時に、「なんかわかんないけどうまいビリヤニだ!」となるのです。

ただこれは、例外もあって、大鍋で作った時の盛り付け方によっては、一皿の中で、米の色がほとんど均一になってしまうこともあります。そして、それが絶対ダメかと言うと、そんなことはありません。ちょっと味は単調になりますが、ここまでくると、好みの問題です。ただ、見た目として、白い米の部分があると、「あ、ちゃんと作っているんだな」とわかって嬉しいです。

なので、店によっては、別に炊いた白いバスマティライスを最後に混ぜて、見た目のカッチビリヤニらしさを演出しているところもあります。人間の味覚はそこまで敏感じゃないので、違いは、まずわからないと思います。味よりも、見た目の方が、違いが判別できる気がします。

 

以上、おいしいカッチビリヤニに求められる条件を並べてきました。

まとめます。

①米がふわっと、ぱらっと、良い具合に炊けていて、

②肉もぱさぱさにならず味が残っていて、

③全体として一体感がありつつ、肉の味と米の味が近くなりすぎないよう、まばらさを残している

こういうビリヤニが、良いカッチビリヤニと言うことができます。

ここまでが、本稿の導入部分です。長くてすみません。

ここから先は、これらの条件を満たすビリヤニを、どうやって作っていくか、という話に移ります。

あえてここまでは、味付けについてはふれていませんでした。それは、味付けは、個人の好みによるからです。なので、ここから先は、南インド屋の味の好みを反映したレシピを詳細に解説することで、おいしいカッチビリヤニの作り方を論じたいと思います。一度、こちらのレシピをざっと読むことをお勧めします。

どんな材料を揃えるか?

料理の出来は材料で八割がた決まると思います。材料を選ぶ際に気を付けていることを述べていきます。

マリネ用材料

●玉ねぎ——1/4個

普通の玉ねぎを使ってください。新玉ねぎは、水分が多く味が薄いので、フライドオニオンには向きません。もし新玉ねぎを使う場合は、1/4個でなく1/2個をつかってください。

●グリーンカルダモン——小さじ1/2●ブラウンカルダモン——1粒

●クローブ——小さじ1/2●ブラックペッパー——小さじ1/2

●クミン——小さじ1/2●シナモン——2cm(厚いカシアの場合、ほんのひとかけで十分です)

●スターアニス——1粒●ナツメグorメース——小さじ1/4

スパイス類は手に入るもので良いです。本来は、色々とグレードがあるのだとは思いますが、とりあえずは気にしなくてよいと思います。もし求道者になりたいのであれば、産地に飛んでください。

●青唐辛子——2本

ここで想定している青唐辛子は、PADMAの冷凍のものです。かなり辛いです。なので、もし、生のあまり辛くないものを使う場合は、量は同じく2本にして、その分、チリパウダーを小さじ1に増やしてください。青唐辛子は水分を多く含むので、たくさん使ってしまうと水っぽくなります。

●ニンニク——4かけ

中国産が良いと思います。宮嶋健一さんという方がtwitterで仰っていたように、国産のものは、水分量が多すぎます。ちょっと、芋っぽいんですよね。

●生姜——2cm

こちらも中国産を使っています。国産の生姜は、なんとなく和風の味がする気がしますが、お好きな生姜をお使いください。

●ヨーグルト——1/2cup

ビヒダスが良いです。酸味が強めで、水っぽくないのが良いです。TOPVALUの黄色いヨーグルトはいけません。水色のなら、まあOKです。

●塩——小さじ1.5

赤穂の塩を使っています。もし、もっと純粋な塩化ナトリウムを使う場合は、すこし塩を減らしてください。逆に、塩味の薄いものを使う場合は、きもち増やすと味がきまります。

●レモン汁——小さじ1

レモンを絞って使うのが一番です。ただ、ポッカでも構いません。香料だらけのレモン汁!と憤る方もいらっしゃいるかもしれませんが、香料の入らないものも存在しますし、そもそも、火を通してしまったら、僕には違いはわかりません。

●ケウラウォーター——小さじ1

ケウラウォーターは、日本で流通しているのは一種類しか見たことがありません。ここではマリネの時に使っていますすが、サフランと一緒に、米の上に振りかけるほうが一般的かもしれません。

●ギー——大さじ1

Amurのギーを使っています。ギーは、植物油の混ざった安いものでなく、pure gheeを使ってください。無ければバターでも良いですが、融点の関係で、口当たりが変わってくるかもしれません。

●ターメリック——小さじ1/4●コリアンダーパウダー——小さじ1

●チリパウダー——小さじ1/2

同じく、スパイスのグレードにはこだわりません。

●ラム肉—–500g

おそらく、正統なビリヤニはマトンで作るべきだと思います。僕も本当なら、マトンの方が好きです。ただ、日本では生肉が手に入りにくく、冷凍ものになってしまいます。肉屋さんには、ラムの生肉の塊は売っていますが(すごく高いけど!)マトンの塊となると、なかなかありません。ましてやハラルとなると、入手難度はますます上がります。

冷凍のマトンとなると、味の抜けたようなものが多く、ビリヤニにしたときに、ばさばさになってしまいます。圧力鍋で調理する分には良いですが、ビリヤニにするには適しません。その点、ラムであれば、風味は物足りないかもしれませんが、肉質がやわらかく、ビリヤニに向きます

ということで、南インド屋ではラム肉を使っていました。インドでビリヤニを作るなら、生のマトンを使って作りたいです。

調理工程の材料

●水—1.8L

茹でるときの水は、普通の水道水です。インドは日本と違い硬水なので、もしインド風にしたいなら、にがりでも入れて硬度を上げると良いかもしれません。塩を入れても硬度は上がる筈なので、水道水にマグネシウムやカルシウムを添加することでどの程度効果があるかは不明です。パスタを茹でるのには硬水が向いているそうですね。

●バスマティライス—3cup

米は、KALAARを使っています。

ビリヤニには、とくに細長いバスマティライスが合います。日本で流通しているものの中では、LAL QILLA Majesticが、おそらく一番細長いと思います。

ただ、手に入るLAL QILLAは、管理の問題か、砕け米が多く、茹でた時に崩れてしまうことが多かったので断念しました。もうすこし状態の良いものが手に入るなら、LALQILLA Majesticがお勧めです。その際は、水につける時間を20分にして、茹で時間も短くします。

 

※2018/6/15追記

最近は、LALQILLA Majesticを使っています。調理技術の向上で、LALQILLA Majesticでも崩れなくなってきました。浸水時間も、45分ほどとっています。

 

●サフラン―ひとつまみ

サフランは高価で用途も限られているので、無理して買いそろえる必要はありません。ただ、もし買うなら、質の良いものを選んでください。めしべの柱頭がちゃんとついていれば、それで十分です。

以上、つかう材料について述べてきました。次に、調理工程の詳説をしていきます。

どうやって作るのか?または、なぜそのように作るのか

この章が本稿の山場です。

基本になるのは、初めに考察した、おいしいカッチビリヤニとはどんなビリヤニか、という条件です。再掲します。

①米がふわっと、ぱらっと、良い具合に炊けていて、

②肉もぱさぱさにならず味が残っていて、

③全体として一体感がありつつ、肉の味と米の味が近くなりすぎないよう、まばらさを残している

こういうビリヤニが、良いカッチビリヤニと言うことができます。

それでは、この条件を踏まえて、レシピを見ていきます。

1.フライドオニオンを作る。気合を入れた薄切りにする。もしくはスライサーを使う。180℃程度の油で、薄く色づくまで揚げる。余熱と酸化で色づくので、丁度よいきつね色まで揚げてしまうと、黒こげになる。

●玉ねぎ——1/4個

「フライドオニオン少なくない?」

はい、少ないです。肉500g米3cupなら、一般的には、玉ねぎ1個分を入れても、多くはないと思います。これから本章で繰り返し述べますが、南インド屋は例によって、うまみ少なめの料理を志向しています。うまみ少なめで、塩もきつくなく、たくさん食べられるようなビリヤニを目指しているので、旨みの塊であるフライドオニオンは、少なめになるのです。

2.スパイスミックスを作る。下記のスパイスをすべてミキサーに入れ、粉砕する。

●グリーンカルダモン——3粒●ブラウンカルダモン——1粒●クローブ——4粒●ブラックペッパー——小さじ1/2●クミン——小さじ1/2●シナモン——2cm(厚いカシアの場合、ほんのひとかけで十分です)●スターアニス——1粒●ナツメグorメース——小さじ1/4

「スパイス少なくない?」

そうですね、日本のインド料理店で食べられるものに比べたら、スパイシーではないと思います。

フライドオニオンを少なくし、うまみを少なくしているので、スパイスも少なめにしています。

実を言うと、このスパイスミックスも、南インド屋が実際に店舗で出していたものより、ちょっと量が多いです。本当なら、上記の量で作ったら、そのうち1/4くらいを捨ててください、と言いたいところなのですが、レシピでそんなことを書くわけにはいかないので、書いていません。いずれにせよ、スパイスは、すくなめです。

「スパイスの種類すくなくない?」

そうかもしれません。コリアンダー、キャラウェイ、ベイリーフ、フェンネル、カルパシ、なんかを入れても良いと思います。市販のガラムマサラを使ってしまっても、それはそれで大丈夫です。シナモン、ブラウンカルダモン、ナツメグ、メース、これらのスパイスが入ると、ビリヤニらしくなるので、ぜひ入れてください。

あとは、好みで構いません。スパイスの調合は、料理の中で、一番ぞんざいで良い部分だと思います。

3.マリネ用ペーストを作る。下記の材料をすべてミキサーに入れ、ペーストにする。

●1のフライドオニオン●青唐辛子——2本●ニンニク——4かけ●生姜——2cm●ヨーグルト——1/2cup●塩——小さじ1.5●レモン汁——小さじ1●ケウラウォーター——小さじ1

「フライドオニオンもペーストにするの?」

はい。ただ、ペーストにしないやり方もあります。ペーストにした方が、舌触りが良くなる気がしますが、そこまでの違いではありません。

「なぜケウラウォーターも一緒にマリネするの?」

これは、水分の調整のためです。できるだけ少なめの水分でマリネしたいのですが、ある程度の水分がないと、ミキサーがうまく回りません。そのため、ケウラウォーターをこのタイミングで入れています。ただ、ケウラウォーターは、炊くときに上から振りかけるほうが一般的だと思います。お好みでどうぞ。

「塩が少なくない?」

はい。少なめです。一般的なビリヤニだと、おそらく1.5倍は入れると思います。繰り返しますが、旨み少なめ、塩分油分スパイスも少なめなのが、南インド屋のビリヤニです。

「パクチーやミントはペーストに入れないの?」

手に入るなら、ぜひ使ってください。どちらも水分を含んでいるので、水分量を調節する必要があります。水分が多いと、米がべチャッとして、ふわ、ぱら、になりません。

方法としては、いくつかあります。

①肉の上にかける米の茹で汁の量を減らす

水分が減ると肉が焦げやすくなすので気を付けてください。

②ヨーグルトを減らす

ヨーグルトを減らしすぎると、今度は肉がうまくマリネできないことがあります。

③マリネペーストを全部鍋に入れないで、捨ててしまう

ヨーグルトの量はそのままにして、マリネした肉を鍋底に敷き詰めるときに、マリネペーストを全部入れないで捨ててしまえば、水分の調節ができます。その分、ビリヤニに入る塩分量も減るので、調整が必要です。

 

パクチーやミントをペーストにして入れると香りが出ておいしいのですが、このように、水分調整が難しくなります。南インド屋の店舗では、パクチーとミントが多めに手に入るときは、一緒にペーストにしていました。

4.出来たペーストと、工程2で作ったスパイスミックス、下記パウダースパイス、ギーを混ぜ合わせ、そこにラム肉を投入してなじませる。常温で2時間放置、もしくは冷蔵庫で一晩おく。マリネしたラム肉を、大きくて深さのある鍋の、鍋底に敷き詰める。

●2のスパイスミックス ●ギー——大さじ1●ターメリック——小さじ1/4●コリアンダーパウダー——小さじ1●チリパウダー——小さじ1/2●ラム肉—–500g(できれば骨付き)

「なぜギーを入れるの?」

ギーを入れると、肉の味が抜けにくい気がします。また、ギーは旨みが強いので、これを抜くと、さらにあっさりしたビリヤニになります。また、香りの点でもギーの貢献は大きいので、ぜひギーは使ってください。

「肉を柔らかくするマンゴーパウダーは使わないの?」

使っても良いです。レモンやターメリック、そしてヨーグルトが肉を柔らかくする役割を果たしているので、ラム肉で作る場合は必要ありません。ただ、マトンで作るとなると、また違うかもしれません。マトンで作ってみて、もし肉が硬くなってしまったら、マンゴーパウダー(アムチュールと言います)を使ってみてくだい。マンゴーパウダーは酸っぱいので、その分、ギーを増やして、味のバランスを取ると良いです。

5.米を茹でる。まずは米をざっと洗い、40分間水につける。

鍋に湯を沸かし、下記のスパイス、塩、サラダ油、を入れる。火力は、米を入れてから再沸騰するまでは強火、以降は中火にする。

米を茹で、下記の要領で、三回に分けて取り出す。ザルで掬い取ると良い。

①米を湯に入れたらざっとかき混ぜ、茹で汁1/2cupを取り、ラム肉にかけてなじませる。再沸騰してから2分間茹でた、ほとんど生の米1/2cupを肉の上に重ねる

②4分後、五分茹での米を①の上に重ね、塩、カルダモン、サラダ油を上から振りかける。掬い取る量は、鍋に残った米の半分。

③3分後、九分茹での米を、②の上に重ねる。米の上に、塩、カルダモン、サラダ油、サフラン、を振りかける。

●水—1.8L●バスマティライス—3cup●塩—大さじ1●カルダモン—5粒●クローブ—5粒●シナモン——5cmを6本●ベイリーフ——3枚●サラダ油——大さじ1

【米の上に振りかける用】

●塩——小さじ1●カルダモン——4粒(塩と合わせてミキサーで粉砕する)●サラダ油——大さじ1●サフラン——ひとつまみ(大さじ1の湯に浸しておく)

これらを2回に分けて、米の上に振りかける。ただしサフランは、最後にまとめてかける。

 

「米の浸水時間が長くない?」

はい。KALAARというバスマティライスは、そこまで細くないので、ある程度時間をかけて吸水させる必要があります。この浸水時間が短いと、米がうまく伸びなかったり、芯が残ってしまったります。逆に、浸水時間が長すぎると、米が崩れやすくなります。この浸水時間は、つかう米の種類によって違いますので、お使いのバスマティライスで最適の時間を見つけてください。前にも書きましたが、LAL QILLA Majesticのように細い米であれば、20分程度で良いです。

ただ、Bahcheffという方のレシピ動画を見ると、細長いバスマティライスを、1時間浸水させています。おそらくは、とても良いバスマティライスを使っているのだと思います。煮崩れないのであれば、浸水時間は長い方が、米が伸びて見た目も食感も良くなります。

「なぜ塩と油を入れて米を茹でるの?」

塩を入れることで米に下味がつき、かつ煮崩れにくくなるからです。油を入れると、米同士がくっつきにくくなる気します。米同士がくっついたり、煮崩れたりすると、それはおいしいビリヤニとは言えません。

「なぜ水の量まで量るの?」

少ない水で茹でると、茹で汁のデンプン濃度が高くなり、米からそれ以上の流出が抑えられるため、煮崩れにくくなる気がします。もしかしたら似非科学かもしれませんが、パスタを茹でるときと同じ考えです。たっぷりの水で茹でると、米が煮崩れやすくなり、とくに肉に近い部分はグズグズになりやすいです。

少なめの量の水で米を茹でるのが、南インド屋のレシピの、大きなポイントです。

「茹でるときはかき混ぜるの?」

かき混ぜすぎてはいけません。ムラが出来ないように、時々、そっとかき混ぜるだけです。バスマティライスは細長く崩れやすいので気を付けてください。

「なぜ三回に分けて米を取り出すの?」

ここがビリヤニの要点です。

鍋底に敷き詰めるマリネした肉は、水分を多く含みます。その蒸気でもって、半茹での米に良い具合に火を通すのが、このビリヤニの仕組みです。

本来であれば、蓋の上にも焼けた炭を乗せて、上下から火を通しますが、残念ながら日本のキッチンでそれを再現するのは難しいです。オーブンを使えるなら、再現はできますが、難しいでしょう。

下火だけで全体をムラなく仕上げなければいけません。下の方の米が煮崩れて、上の方の米は蒸気が回らずにぽそぽそになるのは、ビリヤニのありがちな失敗です。

それを防ぐために、まず、肉に一番近い部分は、ほとんど火の通っていない米を敷くことで、煮崩れを防ぎます。その上に半茹での米を敷き、そして、一番火から遠い上部には、9分茹での米を配することで、全体がむらなく仕上がります。

レシピによっては、水分量や米の茹で加減が違いますが、目指しているところは一緒です。

「なぜ茹で汁を肉の上にかけるの?」

焦げ付きを防ぐのと、あとは、米に肉の味を染み込ませるためです。

上記の文章をよく読むと、もっと鍋底の水分を減らし、全部の米を9分茹でにして、弱火で調理すれば、肉には良い具合に火が通り、かつ米が煮崩れずに、うまく炊けるのではないか、という方法が思いつきます。だから、茹で汁をかける必要はない、ということです。

たしかに、失敗はしにくい炊き方です。ただ、二つ、問題があります。

まず、鍋底と接する部分の肉が硬くなったり、焦げやすくなる点です。水分が少ないと、鍋底に接した部分が、局所的に熱くなるからです。

また、そのやり方では、肉の味が米に染み込みにくくなります。ある程度の水分があれば、ぐつぐつと煮立って、蒸発しつつ、上の米に茶色く染み込みます。それが、弱火だけでゆっくり調理すると、たしかに肉には味が残るのですが、肉汁が上がっていきません。こうなると、味の一体感が生まれないのです。なんとなく、勢いのない味になります。

これは、炊いた米に味付きの肉を混ぜた、セパレート方式に近くなります。この方式は、楽だし失敗も少ないので、採用する店もあるとは思いますが、邪道です。

ということで、茹で汁を鍋底の肉にかける方法を採用しています。また、なぜ水でなく茹で汁かと言うと、茹で汁の方が、接する米を崩しにくいからです。米を茹でるときに少ない水で茹でるのと、同じ考えです。

「牛乳は使わないの?」

茹で汁をかける代わりに、牛乳をかける方法もあります。おそらくは、牛乳の脂肪分で煮崩れにくくするのだと思います。なんとなく、牛乳を入れると味がぼやけそうなので南インド屋のレシピでは使っていません。もし、使いたければ、試してみてください。

「なぜ米の上からサラダ油をかけるの?」

サラダ油をかけると、米が煮崩れにくくなり、また、味が良くなるからです。レシピによっては、もっと大量のサラダ油をかけるものもあります。このレシピでは少なめですので、重めにしたい場合は、油の量を増やして、フライドオニオンと塩とスパイスを増やせば、どんどん濃い味に変えることができます。インドのビリヤニは、テカッとしているものも多そうです。

「南インド屋の店で食べたビリヤニは、もっとホールスパイスがごろごろ入ってた!」

良くお気づきですね。その通りです。

米の上からサラダ油と塩、カルダモンを振りかけるときに、一緒にホールスパイスをバラバラとかけていました。

ホールスパイスがごろごろ入っていると、見た目が良いです。お!スパイスだ!となります。写真写りが良くなります

また、ホールスパイスが接している部分が、華やかな香りになり、「あ、シナモンの味だ」「こっちはクローブの味だ」となって楽しいので、入れていました。

ただ、多分、インド本国では、ホールスパイスのごろごろ入ったビリヤニは、あまり一般的ではないと思います。なので、南インド屋のレシピでは、米を茹でるとき時に少し入れるだけでしたが、もしお店っぽくしたいなら、ホールスパイスを米の上にバラバラのせて、一緒に炊くことをお勧めします。繰り返しますが、たぶん邪道です。

そしてもう一つ、米を茹ですぎてしまった場合や、マリネ部分の水が多いなあ、と作りながら気が付いた時は、同じようにして、ホールスパイスに水分を吸い取らせると、多少は調整ができます。なんという狡いやり方でしょう。

「サフランは牛乳に浸さないの?」

これも好みの問題です。お湯の方が、はっきりとした色が出る気がするのですが、牛乳を使いたい方は使ってください。

「小麦粉で蓋を密閉しないの?」

練った小麦で、鍋と蓋をくっつけて密封するのがビリヤニのお約束です。アターを使いますね。

ただ、たぶん、あまり効果はないと思います。インドの動画を見ると、ビリヤニを、けっこう雑な作りの鍋で作っています。そういう鍋なら、小麦粉で封をしないと、熱も蒸気も逃げてしまい、うまく蒸せないと思います。ある程度きちっとした蓋があるのなら、わざわざ封をしなくても大丈夫だと思います。貧弱な蓋をお使いの方や、こだわり派の方は封をしてみてください。

6.鍋を火にかける。最大の強火にして、よく蒸気が出てきたら、弱火にする。15分経ったら火を止め、30分間蒸らす。

7.盛り付ける。二通りの盛り付け方があるので、お好みでどうぞ。

①肉入りの米を下に敷き、その上に、サフラン付きの米を重ねる。

②二つを混ぜてしまい、適当に盛りつける。

「よく蒸気が出てきたらって、どういう状態?」

言い換えると、しっかり沸騰し、熱が全体に回ったら、です。加熱するのはこの強火の段階だけで、あとの弱火の部分は、温度を保つため、というイメージです。レシピによっては、強火で一気に炊き上げるものもありますが、それはおそらく、鍋底が広くて高さの無い鍋と、相当強い火力が必要になります。

この、強火から弱火に変えるタイミングは、環境によって大きく違います。沸騰しているし肉にも火が通って来ていても、蒸気が上がってこないこともあります。

おそらくは、鍋の材質や、米の敷き詰め方などで違うとは思うのですが、こればっかりは、レシピ化が難しいところです。

目安としては、グツグツとしっかり沸いている音がしたり、肉に火の通りはじめる匂いがしたりすれば、火を弱めてオッケーです。何度かご自分の鍋で試してみてください。

「蒸らし時間が長くない?」

はい、長いです。既に述べたように、強火で一気に温度を上げた後は、ゆっくりと時間をかけて調理をします。余熱調理と言うやつです。

それともう一つ、火からおろして、すぐにかき混ぜると、米が崩れやすいです。温度が少し下がり、米が締まってから盛り付けたいので、冷まめるまで待っている、という意味もあります。

もし、蓄熱性や保温性にとても優れたホーロー鍋なんかで作る場合、火からおろしてもなかなか温度が下がらず、火が通りすぎ、盛り付けるときに崩れやすくなる恐れがあります。

なので、ストーブやルクルーゼを使う場合は、弱火で加熱する時間を短くするか、もしくは火からおろした濡れ布巾を鍋底に当てて、冷ましたほうが良いです。

「鍋にビリヤニがびっちりで、盛り付けるのが難しい!」

そういう時は、まずは上のサフランで色がついた部分だけを取り出し、ボールにあけます。

それから、白い米の部分を片方に寄せて積むようにして、鍋底の肉までたどり着きます。あまり乱暴にやると米が崩れるので気を付けてください。

 

以上、長々と解説をしました。

おいしいビリヤニの条件を満たしつつ、南インド屋の好きな味にするためのポイントでしたが、大事なところで、環境によるとか鍋によるとか、火力によるとか、誤魔化すようなことを書いています。つまり、レシピ通りに作ってもうまくいかないこともある、ということです。

ここまで読んでいただけた方には、それも仕方がないことと納得していただけるかと思います。

最後に、それでもうまくいかない時のための、トラブルシューティングを書いて終わりにします。ぜひお役立てください。

ビリヤニ・トラブルシューティング

米が崩れてしまった・柔らかくなってしまった。

○米の浸水時間が長くありませんか?

→浸水時間は、米の種類によって違います。細い米なら浸水時間を短く。太い米なら長く浸水させます。

○米を研いでいませんか?

→米は、ざっと流す程度で良く、日本米のように研いではいけません

○安い米、もしくは古い米を使っていませんか?

→米によっては、どうやっても煮崩れてしまうこともあります。また、保管状況が悪いと、たとえ高級米でも、うまく作れないことはあります。

○マリネするペーストに、ヨーグルトを入れすぎていませんが?

→ヨーグルトは水分をたくさん含みます。きちっと量ってください。

○米を茹でる水が多すぎませんか?塩はちゃんと入れましたか?

→水の量が、このレシピの最大のコツです。少なめの水で茹でないといけません。また、塩が少ないと煮崩れの原因になります。

○ゆで時間が長くはありませんか?

→ビリヤニはタイミング勝負です。もたもたと米を掬っていたら、茹ですぎになってしまいます。時間はあくまで目安なので、茹で加減は、ときどき味見して把握してください。

○茹でる湯にサラダ油を入れましたか?米の上にサラダ油をかけましたか?

→油は、煮崩れるのを防ぎます。思い切って入れてください。

○蓄熱性の高い鍋を使っていませんか?

鍋によっては、温度が下がりにくく、余熱の段階で火が通りすぎることもあります。その場合は、弱火で加熱する時間を短くするか、火からおろしたときに鍋底に濡れ布巾を当ててください。

○肉を小さく切りすぎていませんか?ブラジル産鶏もも肉を使っていませんか?

肉から水が出すぎて、米が煮崩れることがあります。とくに、ブラジル産の開いた鶏もも肉をつかうと、水が出やすいです。チキンで作るときも、骨付きが望ましいです。

米がポソポソになる・生っぽくなる

○浸水時間は足りていますか?冷たーい水につけていませんか?

時間が短かったり、水温が極端に低いと、うまく水を吸わないことがあります。

○沸騰させた湯で茹でましたか?

温度が上がるのに時間がかかりすぎると、米の食感が変になることがあります。きちっと沸騰させた状態で米を入れ、再沸騰するまでは強火にしてください。

○鍋底に茹で汁をちゃんと入れましたか?

水分が足りないと、蒸気がうまく回らず、上の方が生っぽくなることがあります。

○蓋はちゃんとしまっていますか?

蓋がしまっていなかったり、気密性の低い蓋だと、蒸気が逃げてうまく回らないことがあります。そういう時は、水で練った小麦粉で封をしてください。

○米を掬い取ってから、もたもたしていませんか?

米を掬い取ったら、ざっと水を切り、すぐに肉の上に重ねてください。ここでもたもたすると、米の温度が下がり、食感がぽそぽそになります。

肉が硬くなってしまった・焦げてしまった

○肉は、まともな肉ですか?

解凍と冷凍を繰り返したような肉では、どうしてもぱさぱさになってしまいます。良い肉を入手してください。また、既に述べたように、ブラジル産の開いた鶏もも肉だと、ぱさぱさになりやすいです。

○茹で汁を肉になじませましたか?

鍋底の水分が足りないと、焦げ付きやすくなります。また、茹で汁をかけた後、スプーンか何かですこし馴染ませないと、茹で汁が肉の上に留まってしまい、鍋と肉の間に水分が行き渡らず、焦げやすくなります。

○塩が多すぎませんか?マリネ時間が長すぎませんか?

マリネするときに、水分が抜けてぱさぱさになってしまうこともあります。とくにチキンでは、あまりマリネしすぎると、味が抜けてしまうこともあります。

○火が強すぎませんか?強火の時間が長くありませんか?

コンロや鍋によっては、全開の強火では焦げ付いてしまうこともあります。様子を見て、火を弱めにしたり、強火の時間を短くしてください。

味が物足りない・塩味が足りない

○ギーは入れましたか?

ギーがないと、あっさりめのビリヤニになります。バターでも良いので入れてください。

○サラダ油を米の上にかけましたか?

米に油をかけると、急においしくなります。物足りない時は、油と塩を増やしてください。

○肉は骨つきをつかいましたか?

肉は骨付きに限ります。骨なしとは全然違うので、ぜひ骨付きを使ってください。

○米を茹でるときに塩をしっかり入れましたか?

米に下味をつける意味合いがあるので、塩はしっかり入れてください。

 

以上の項目をチェックしても、それでもおいしいビリヤニにを作れないときは、ぜひ連絡をください。ブログのコメント欄や問い合わせ、もしくはSNSからも受けつけています。


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