オリーブの丘レビュー 好ましさでお腹いっぱいだよ

オリーブの丘に行ってきた。札幌には来ていなかったのです。結局のところ津軽海峡を渡るのは現代でも大変なことのようで、補給線が伸びるのをよしとしないチェーン店は多いのだと思う。僕はサイゼリヤが撤退しやしないか、戦々恐々としている。twitter上で、サイゼリヤよりもオリーブの丘の方が好き!みたいな投稿を見たので、どんなものかと行ってきた。結論から言うと、サイゼリヤの代替にはならず、競るのはガストじゃないかというのが感想。立地としても料理の方向性としても店作りとしても、サイゼリヤよりもファミレスど真ん中の仕様で、実際に札幌の一店舗目は環状通り沿いにできた。環状通東駅から徒歩で行くのは僕くらいだろうと思う。ここにはたくさんチェーン店があり、スターバックスは市内で二番目の売り上げを誇るとか。テイクアウト需要ね。最高だよね、テイクアウト。店の椅子もトイレも使わせないで、ホイッと渡すだけで良いのだから。

オリーブの丘の細かいレビューをやっても良いのだけど、もう少し違う話をしたい。オリーブの丘はおいしい。間違いなくおいしい。あれをおいしくないと言うのは、いわゆる厄介なオタクとか、拗らせたグルメ野郎とかだろう。オリーブの丘はおいしいし、サイゼリヤよりもおいしいだろう。言い方を変えよう。人間の脳は、オリーブの丘を、おいしいと感じる。間違いなく、脳のスイッチを押される味がする。柔らかく、旨みが強く、甘い。そういう好ましさがこれでもかと押し寄せてきて脳のスイッチを強く雑に押していく。好ましさでお腹いっぱいだよ。やっぱりレビューをしようか。どう好ましいのかを伝えたい。最初に明確にしておきたいのは、このレビューは、非常に個人的なもので、多分僕の身体的特性に由来するものだろうと思う。普通の人は普通にオリーブの丘美味しいよねで終わるところが、僕のような浮世離れした生活をしている人間がオリーブの丘にいくとどう感じるかのサンプルとして読んでほしい。

値段が狂っていて、イワシのマリネが220円(以下全て税別)、イカが390円。ガーリックマヨ、アリオリソースは別で100円だったかな。イワシのマリネは、身が柔らかく、臭みはなく(どんな処理してるの?)、結構脂が乗っていた。そして酢が弱い。甘味もあった気がする。イカは、ぷにゅっと柔らかく、衣の味が強くて、油が悪い。なんだか旨みが強かった記憶がある。飲食店をやったことないからわからないけど、本来それぞれ、900円と1500円くらいは取らないと提供してはいけない料理に感じる。でも、220円と390円だから、はっきり言って料理としては何か大きな欠落を感じる。一回全部粉末にした上で元の形に再構築したような。ものすごい企業努力をしている上で、超えてはいけない一線をガンガン超えているような味がする。繰り返すけど、おいしいんだよ。甘くて柔らかくて旨みが強くて塩も効いて。食べ物で好ましいとされる要素を抽出して強めて、ネガティブ要素は徹底的に排除したような味。正解だよ、正解。脳がおいしいと叫んでいるよ。そして写真はこの一枚で他は撮っていない。僕はここで全てを理解した。完全にnot for meだ。同行者に申し訳なく思った。

あんまり書き連ねても気持ちの良いものではないから簡潔にいくネ。同行者が飲んだワインは、サイゼリヤを2段濃くしたような味。ちなみにサイゼリヤの赤ワインは氷を入れて飲むとおいしいよ。ローマ人スタイル。しらすとネギのブルスケッタ(320円)は、食べた瞬間、お、これはいいかも、と思ったらシラスの下に確かジュレ的なソースが潜んでいて、甘くうまく塩気があり、本当においしかった。マルゲリータ(540円)は、ちょっと普通においしくなかった。冷めたヘニャヘニャお煎餅の上にチーズが載っていた。これは本当によくない。猫ちゃんロボットは、人間が運ぶよりもだいぶ時間を食うみたいで、料理は全体的に冷めていた。サイゼリヤではしばらくは採用されないだろうことを確信した。

イカ墨のパスタ(590円)。見た目は良いぞ!と期待が高まる。パスタは細めなのが、現代的というか女子ウケ的というか。これがさ、なんだかよくわからない味だったんだよね。そもそも冷めてて固まり気味だったのもあるのだけど、サイゼリヤのイカ墨よりさらにイカ墨味が薄かった気がした。タバスコ、粉チーズ、オリーブオイルをかけたら、全部タバスコの味に負けて、タバスコパスタになってしまった。そもそもタバスコなんてかけるなと言われたら謝るしかない。ここで僕は、好ましい要素で胸がいっぱいになって、フライドポテト(390円)を注文した。舌の逃げ場になるかと思ったら、コンソメパンチ味の、カラオケで出てきそうなポテトだった。カラオケでは食べたことがないから100%想像だけど。そしてやっぱり油の悪さが響いている。コストを削りながら良いものを出したいときにフライヤーは導入しない方が良いのだと思った。ローストにこだわるサイゼリヤの正しさが浮き彫りになった。

そしてメインディッシュは、ハーブ香る豚のポルケッタ〜ペッパー&バルサミコソース〜(790円)。すでに脳だけがお腹いっぱいになっているところにこれは効いた。見た目は、なんでこれが790円で出てくるの?としか言えない。安すぎる。食べてみても、安すぎる!安すぎたんだ!と思った。一応繰り返すと、おいしいんだよ。甘くてしょっぱくて、柔らかくて、旨みが強くて。適正価格は2000円でしょうか。それを790円で出すための工夫の味がした。肉は徹底的に処理され、マリネ時間48時間!加圧1時間!みたいな食感だった。ソースもこれまた甘くてうまい。デザートの、デリッツァ アルリモーネは、確かレモン味のスポンジとアイスにクリームみたいなのがかかったものだったと思う。懐かしい、昔のレモン味がした。一番味に余白があったと思う。会計は、確か二人で4500円くらいだっただろうか。めっちゃ安いよね。異常に安い。周りのテーブルを見ると、こういう食べ方をしているのは僕だけで、あとはみなさまランチメニューにデザートがつくかどうか、という感じだった。

まとめよう。旨み、甘み、油、塩気、柔らかさ、といったものは脳が間違いなく喜ぶのだけど、それらだけを強めたものを体に放り込むと、実際に摂取しているものと脳の刺激に齟齬が生まれる。お腹がいっぱいになる訳でも、栄養をとった感じもしないけど、脳だけが刺激されている状態。文字通り胸がいっぱいになって、ゲップが出るような感じだった。自然界の食べ物は、そんなに好ましい要素が凝集しているはずはないから、きっとオリーブの丘レベルでおいしくしてしまうと、僕はうまく食べられないのだと思う。もっと、ふかした芋とか、しっかり焼いた肉とか、そういうものでお腹をいっぱいにしたいと切実に思った。この辺りの許容量は個人差があって、生活習慣によっても変わるのだろうと思う。僕はほとんど自分で作ったものと限られた飲食店にしか行かないから、そういう、おいしさが溢れているようなものへの耐性がない。加齢もあるだろうと思う(36歳だよ!ベッキーだよ!)。僕が酒を飲まないから、そういう刺激の強い食べ物を食べる習慣がないのもあるとは思う。サイゼリヤはいいぞ。味気ないものは味気ないまま出してくる。

この話を一歩進めると、おいしい料理とはなんぞやという話になってくるし、下手をすると芸術分野全体に言えることにつながる気もする。そういう意味では、スポーツは純粋で良い。ホームランを300本打っても誰も文句を言わない(打たれたチーム除く)し、バランスがどうとかケチをつける人はいない。足なんて、いくら速くなってもいい。僕はやっぱり、料理は、そういう、刺激が強ければそれでいい、という世界ではないと思っている。お腹いっぱいになって、安全で、体に良いものであることが何より大事で、おいしさはデコレーション部分にすぎない。これは成熟とも言えるし、料理人としての退化とも言える。若い時に間借りで好きに料理をしたし料理教室もがんばったから、一定は満足しているというのもあるかもしれない。これからは何をしようね。全く悲観はしていない。楽しいことができそうだと思っている。