【レシピ本紹介】読み物として面白い「カレーな薬膳」渡辺玲

さあ南インド料理に取り組もう、という時に、どの本を買えばよいでしょうか。

南インド屋は2017年2月現在、本として出版はしていませんが、やはり本は良いものです。

そこで、南インド料理の本を取り上げて、書評のようなものをしていきます。第一回目は、渡辺玲著「カレーな薬膳」晶文社(2003年)です。

この本の評価をまとめると、このようになります。

「読み物としては面白く、薬膳という切り口も親しみやすいが、取り上げられているレシピは、南インドに焦点が合っていない。また、料理名の表記が不十分で、体系的に述べられていないため、情報的価値は低い。とくに、初心者には向いておらず、体系的に学びたい方にも向いていない。ぜひ『誰も知らなインド料理』を読んでください」

これを詳述していきますので、ぜひお付き合いください。

1.内容の紹介

2.本書の良いところ

2-1先駆け、なのかな

2-2単純に読み物として面白い

3.本書に足りないところ

3-1このレシピ、本当に南インドのもの?

3-2開かれた情報でない、とはどういうことか

3-2-1この料理はなんという名前?

3-2-2情報が体系化されていない

4.本書の問題点のその向こう(補稿)

1.内容の紹介

南インド料理を志す日本人なら、おそらく一度は目にしたことのあるはずの、有名な本です。渡辺玲先生です。著者紹介を抜き出すと、

1960年生まれ。東京の老舗インド料理店にてインド料理の修行を開始。日本とインドを往復しつつ研究を重ねる。現在は出張料理、ケータリングサービスや料理教室を通じて、インドの食文化を広めている。著書に「誰も知らないインド料理」「ごちそうはバナナの葉の上に」(出帆新社)がある

こういう方です。インド料理店はアジャンタで、料理教室は、西荻窪のサザンスパイスです。おそらく、この業界では最も知名度が高く、もっとも本が売れていて、集客することができる人なのではないかと、勝手に考えています。

一番は、買って読むことなので、お金に余裕のある方は買って読んでください。中古も出回っているかもしれません。

晶文社のサイトに紹介文が載っていましたので、それを引用します。

良薬は口に苦し、は南インドカレーにはあてはまらない。スパイスを効果的に使い、油控えめ。野菜豊富でとても美味なのだ。動脈硬化や痛風、高血圧の予防。肩こり、便秘の解消。アトピー、ストレス退治にダイエット。身近な食材を使ったレシピを、効能別に紹介する体のごちそう百科。「食のバラエティーを、より豊かにする一冊」

http://www.shobunsha.co.jp/?p=1741

レシピ本の内容を紹介するにおいて、料理の名前を列挙する以上に効果的な方法がないので、まずはそうします。目次から抜き出しています。

なすのココナッツ・マサラ

カリフラワーのクミン炒め

鮭のココナッツ・カレー

トマト・ライス

ムング・ダル・カレー

さばのタマリンド・カレー

さつまいものアーンドラ風コランブ

ゴーヤのマサラ・フライ

じゃがいもとにんじんのマサラ

キャベツのムング・ダル・クートゥ

メティ・カレー

にんじんとごまのサラダ

冬瓜のヨーグルト・カレー

タマリンド・ライス

オニオンとトマトのアチャール

チキンン・レバー・フライ

オニオン・パコラ

ポーク・ビンダルー

チキン・カレー

ゆで卵のカレー

オクラとパプリカのサンバル

大根のサンバル

トマト・パプ

夏のラッサム

冬のラッサム

かぼちゃのチャナ・ダル・クートゥ

インギ・プリ

きゅうりのチリ・ソルトがけ

アル・パラク

ヨーグルト・シチュー

パラク・ダル

黒ゴマのチャトニ

焼きなすとじゃがいものタマリンド・カレー

 

以上が内容紹介です。次に、本書の優れている点について述べます。

2.本書の良いところ

内容が大体つかめたところで、書評の中身に入っていきます。まずは良いところを挙げていきます。

簡単に言うと、先駆けであり、そして読み物として面白い本である、ということになります。順番に見ていきます。

2-1先駆け、なのかな

本書の初出は2003年5月です。現在八刷です。

インド料理の本といえば、レヌ・アロラさんのもの を真っ先に思い浮かべます。あの、何冊も似たようなのが出ていて、厚くてカラーの本です。他にも、インド料理の本なら、たくさんあるでしょう。ただし、南インド料理となると、数は少なくなります。本書に先んじているのは、

「10分でできる南インド料理―インド大使館秘伝珠玉のカレーレシピ60」と、同じ渡辺玲さんの「誰も知らないインド料理」くらいでしょうか。誰も知らない、はインド料理全般なので、南インドに特化した本ではありません

つまり、日本語のレシピ本としては、先駆けということですね。だから渡辺玲さんは、この業界の有名人なのだと思います。

2-2 読み物として面白い 

渡辺玲さんはブログもやってらっしゃって、文量が多いです。そういう方なのでしょう。活字好きには嬉しいです。

そして本書も、薬膳を冠した題名に恥じず、茄子の色素ナスニンはがんに効く、抗酸化作用の強い玉ねぎ、キャベツのビタミンUは胃潰瘍に効く、タマリンドの殺菌防腐力、と効能が次々と繰り出されます。なんだか読むだけで健康で頑健な体になれるのではという気になります

また、挿入される小話も、インド人シェフに師事したことはおろか、インドにも行ったことのない店員両名には、新鮮です。

このように、本書は読み物として面白いのです。そして、インド料理好きだけでなく、体に良いもの好きが手に取ったことで、この本はよく売れたのだと思います。そういう意味で、コアなインド料理ファン以外にも、南インド料理を広めるのに一役買っているはずです。

まとめると、

「この分野のレシピ本としては先駆けであり、かつ読み物としての面白さを備えているため、インド料理のコアなファン以外にも広く読まれた」

ということになります。

では何が問題か、というと、まさにそこにあります。

売れてしまったけれど、この本は、南インド料理の魅力を十分に伝えてはいません。初学者には向きませんし、体系的に学びたい人にも向きません。あくまで読み物として楽しむものであると主張するために、以下、心苦しいですが、本書の批判を展開していきます。

3 本書に足りないところ

それでは、本書に足りないところを検討していきます

本書の欠点は、南インドに焦点が合っていないこと、そして、開かれた情報でないことです。意外かもしれませんが、本書のレシピは、あまり南インドらしくはありません。

では、南インドらしさとは、なにを指すのでしょうか。まずはそこからはじめます。

本書の前書きや、渡辺玲さんの著書「誰も知らないインド料理」の記述から、渡辺玲さんの言う「南インドらしさ」を考えていきます。結局は、以前のコラムで行った、ミールスの定義と、ほぼ同じになります。


「スパイスを効果的に使い、油は少なめ。野菜、豆が豊富だから体にいい。」(本書カバーの折り込み部)

「濃度ひとつとっても、トロリと濃厚なものからサラサラにシャバシャバ、まったく汁気のないものまでありとあらゆるバリエーションがある」(本書p.22)

「主たる具材になる野菜だけをとっても(中略)じつにさまざま」(本書p.22-p.23)

「さらに、膨大な種類を誇る豆類もこぞってカレーにするし(中略)トロピカルフルーツのカレーだってある」(本書p.23)

「そうした一方でチキンやマトンといった肉カレーのほか、魚やエビなどシーフドのカレーにおいしいものが多いのも、われわれ日本人にとってはうれしいところだ。」(本書p.23)

「たとえば玉ねぎを使う場合(中略)かなり大ざっぱな切り方だったり炒め加減も浅くて軽いことがしばしばだ」(本書p.23)

「辛さは一般に、北インドのレストラン料理(中略)にくらべて強めだが、全体の味つけは意外なくらいにさっぱりしている。こと野菜や豆を使ったカレーに関しては脂っこいと感じられることは皆無に近く、辛み、甘み、そして酸味という三味のバランスがよくとれているものが多い」(本書p.24)

「総じて、南インドのカレーはスパイシーでホットではあるものの同時にライトでヘルシー、視覚的にもカラフルなイメージが強い。」(本書p.24)

「本書で紹介するのはズバリ『胃にもたれず』、それどころか『体が軽くなるカレー』である」(本書p.35)

「南インド流薬膳カレーにはもうひとつのメリットがある。それは、調理に使う油脂の量が少ないことだ。」(本書p.38)

「地理の話をすれば、南インドとは(中略)四つの行政府をいうのが普通だ」(本書p.21)

→タミル・ナドゥ州、カルナータカ州、アーンドラ・プラデシュ州、ケララ州、を指します。(筆者補注)

「逆に地理的には南インドに含まれそうなゴアの料理には、なるほど南インド的要素も濃厚ですが、オリジナリティが勝っています。だから南インドには入れません」(「誰も知らないインド料理」光文社p.38)

「・北インド→アーリア→イスラーム→デリー→肉料理

・南インド→ドラヴィダ→ヒンドゥー→チェンナイ→菜食料理

もちろん、ほかにもいろいろな要素がありますし、さまざまな組み合わせが考えられます。そんな中、この流れが私のおすすめのパターンといえます。」(「誰も知らないインド料理」光文社p.41)


 

以上、渡辺玲さんがどのような南インドのイメージを持っているかを見てきました。野菜、豆、シーフード、オイル少なめ、あっさり、胃もたれしない、というようなイメージです。もちろん、このイメージに反する南インド料理もたくさんありますが、一般的な南インドのイメージを、渡辺玲さんはこう捉えているのでしょう。

それでは、渡辺玲さんのイメージと、南インド屋の知識の範囲内で、各レシピの南インドらしさを検討していきます。

残念ながら、あまり南インドに焦点が合っているとは言えない結果になります。

3-1このレシピ、本当に南インドのもの?

南インドらしさを★で表現します。★★★★★の5つが「いかにも南インド」です。星の数は、深く考えないでください。目安です。

★★★★★ いかにも南インド

★★★★☆ 南インドらしいが、濃厚でオイリー

★★★☆☆ 南インドらしいが、アレンジが加わっている

★★☆☆☆ インド全域で食べられる。南インド固有ではない。もしくは北インド。

★☆☆☆☆ インド料理と呼べるか怪しい

 

○なすのココナッツ・マサラ ★★★★☆南インドらしいが、濃厚でオイリー

ココナッツ、玉ねぎ、トマト、カシューナッツ、ポピーシードなどの濃厚なグレイビーに、油で焼いた茄子を入れたものです。コルマkormaにあたるものでしょうか。ハイデラバード名物のバガラベイガンbaghara bainganにも近いでしょうか。いきなり野菜なのに濃厚です。オイリーです

カシューナッツは、あまり南インドらしくありません。注にあるように、カシューナッツの代わりにピーナッツを使った方が良いです。

○カリフラワーのクミン炒め ★★☆☆☆インド全域で食べられる。南インド固有ではない。もしくは北インド。

たしかにあっさりはしています。

南インドでも食べるとは思いますが、北インドの「サブジ」に近く、南インドらしくはありません。ケララ州のメルクプラティmezukkupurathiとも言えますが、よくわかりません。

○鮭のココナッツ・カレー ★★★★★いかにも南インド

ココナッツでシーフードと言えば、これはもう南インドです。

○トマト・ライス ★★★☆☆南インドらしいが、アレンジが加わっている

混ぜご飯は、南インドらしい食べ物です。ただ、何かへの配慮で、日本米を炊飯器で炊くレシピです。初版の2003年なら、インディカ米も出回っていたとは思うのですが。

○ムング・ダル・カレー ★★☆☆☆インド全域で食べられる。南インド固有ではない。もしくは北インド。 

ダルはインド全土で食べられています。写真を見ると、粘度が高めで、ご飯にかけるというより、チャパティにつけて食べるような見た目なのが気になります。

○さばのタマリンド・カレー ★★★★★いかにも南インド

酸っぱいフィッシュカレーは、おいしいです。いかにも南インドです。 

○さつまいものアーンドラ風コザンブ★★★★★いかにも南インド

甘酸っぱいグレイビーでサツマイモを煮たものです。コザンブというのは、酸味のついた、ある程度水気のあるカレーを指します。kuzhambuですね。ただこれは、敢えて言うならタミル・ナドゥ州の料理なので、なぜアーンドラ風のものを取り上げたのか、疑問が残ります。ちなみに、店員Aはこういうカレーが嫌いです。

○ゴーヤのマサラ・フライ★★☆☆☆インド全域で食べられる。南インド固有ではない。もしくは北インド。

ゴーヤにスパイスをつけて揚げたものです。ゴーヤとスパイスの味がします。これくらい単純なものだと、南インドらしいとは言いにくいところです。おそらく、インド全域で食べられます

○じゃがいもとにんじんのマサラ★★★☆☆南インドらしいが、よくわかりません

拍子切りにしたじゃが芋と人参を茹でて、玉ねぎ、トマト、ココナッツミルクで作ったグレイビーで和えたものです。わりと濃厚です。名前のつけにくい、まあ、こういう料理もあるだろうな、というカレーです。このグレイビーでチキンやエビを使って、ノンベジのカレーにしてもおいしいと書かれていますが、あまりお勧めはしません。ぼんやりした味になりますし、ヒングというスパイスは、基本的に野菜料理に使うものです。

○キャベツのムング・ダル・クートゥ★★★★★いかにも南インド

切ったキャベツを、豆とココナッツで煮たものです。いかにも南インドです。

ただ、何故かしら、ココナッツミルクを使っています。「誰も知らないインド料理」でもココナッツミルクを使っており、同書では、本式にはココナッツの果肉とクミンとグリーンチリとで、「グリーン・マサラ」というペーストを作ると書いてあるのですが、なぜ本式にしないのでしょうか。

○メティ・カレー★★★★★いかにも南インド

フェネグリークがたくさん入った、酸っぱくて辛いスープのようなものです。主役がスパイスというのがすごいですね。vendhaya kuzhambuです。黒胡椒が主役のmilagu kuzhambuというのもあります。タミル料理です

○にんじんとごまのサラダ★☆☆☆☆インド料理と呼べるか怪しい

細切りの人参、ナッツ、レーズンを、レモンとクミン、ごまとで和えたサラダです。クミンは使っていますが、インド料理ではないと思います。ただ、このサラダはとてもおいしいのでお勧めです。もしかしたらこの本の中で一番おいしいかもしれません。

○冬瓜のヨーグルトカレー★★★★★いかにも南インド

冬瓜を、ヨーグルトとココナッツで煮たカレーです。ケララのアヴィアルの応用であると述べていますが、写真を見るに、アヴィアルとしては水気が多いです。いずれにせよ南インドらしいカレーです。こちらではココナッツファインを使ってグリーン・マサラを作っています。なぜクートゥではココナッツファインを使わないのか不思議です。

○タマリンドライス★★★★★いかにも南インド

タマリンドで酸味を付けた、豆やナッツの食感が楽しい混ぜご飯です。トマトライスの項で述べたように、混ぜご飯は、南インドらしい食べ物です。こちらは、ちゃんと混ぜご飯になっています。

○オニオンとトマトのアチャール★★☆☆☆インド全域で食べられる。どちらかというと北インド。

玉ねぎの薄切りとトマトのみじん切りに、レモンと塩をかけたものです。これは肉料理の付け合わせとして食べるとおいしいです。南インド、なのでしょうか。ミールスにはついてこないと思います。香取薫さんの「家庭で作れる南インドのカレーとスパイス料理」でも、ココナッツビネガーを使ったものがケララ南部の料理として紹介されています。ココナッツビネガーをつけば、まあそれはケララ料理ですよね。よくわかりません。

○チキン・レバー・フライ★★★★★南インドらしいが、レバーって食べにくいですよね

Eeral varuvalでしょうか。レバーの炒め物です。南インドでは、玉ねぎがっちりの、パンジャブっぽい肉の炒め物より、簡単に炒めたものが好まれるみたいですね。ただ、レバーの炒め物って、なんというか、誰が喜ぶのだろう、という気がします。インド人が作る以上、ぱさぱさになるまで火を通しそうです。

レシピ内で、チキン・チリ・フライ、マトン・ペッパー・フライにも言及しているのですが、これらのほうが一般的で、需要がありそうなものですが、あえてレバーなのですね。

○オニオン・パコラ★★★☆☆インド全域で食べられますが、米を使うのが南インドらしいみたいです

玉ねぎのかき揚げのようなものです。南インドでも北インドでも、ネパールでも食べられるものですね。

ただ、米粉をつかっているのが南インドらしさのようです。パコラとかパコダとか、バジとも呼ぶようです。

○ポーク・ビンダルー★☆☆☆☆インド料理と呼べるか怪しい

豚肉のカレーに酢を加えた、ゴア州の料理です。ポルトガルの影響を受けているようです。レシピではモモ肉を使っていますが、個人的にはバラ肉の方がおいしいと思います。味としては、思いっきり辛くて、酸っぱくて、そして見た目が真っ赤、という、これってインド料理なの?というカレーです。南インドかどうかはさておき、とてもおいしいです。

○チキンカレー★★★★★南インドらしい

いかにも南インド、というよりは、南インド風にチキンカレーを作ったらこうなるだろう、というカレーです。次のゆで卵のカレーもそうです。玉ねぎの扱い方と、ココナッツミルクを入れる点が南インドらしいのです。簡単ですね。aromaticスパイスを多く使うところは、ケララ州っぽい気もします。

○ゆで卵のカレー★★★★★南インドらしい

トマト、玉ねぎ、ココナッツをペーストにして作るゆで卵のカレーです。多分南インドらしいのだと思います。ミキサーにかけているので、スムースなグレイビーになります。おいしく作りやすいカレーです。

○オクラとパプリカのサンバル★★★★★南インドらしい

南インドを代表するカレーです。

○大根のサンバル★★★★★南インドらしい

南インドを代表するカレーです。ただ、大根は、どうかと思います。大根はインドで本当に一般的なのでしょうか。個人的には冬瓜が好みです。

○トマト・パプ★★★★★南インドらしい

tomato pappuですね。トマト入りのスパイシーな豆カレーです。このレシピだとサンバルと味が似ています。

○夏のラッサム★★★★★南インドらしい

南インドを代表するカレーです。

○冬のラッサム★★★★★南インドらしい

南インドを代表するカレーです。

○かぼちゃのチャナ・ダル・クートゥ★★★★★南インドらしい

クートゥその2です。チャナダルとココナッツで南瓜を煮たものです。

○インギ・プリ★★★☆☆南インドらしいが、アレンジが加わっている

生姜とタマリンドの、酸っぱいチャトニです。ペーストのようなものです。ケララ州の料理です。本書のレシピではシャバシャバであると記述されていますが、とろっとしたものが一般的で、きっと渡辺玲さんにそれを作ってくれた同僚のインド人シェフは、タマリンドを大量に使うのが勿体なかったのか、ぱっと作りたかったのか、簡易版にしたのだと思います。

○きゅうりのチリ・ソルトがけ★★★☆☆南インドらしいが、よくわかりません

きゅうりに、チリパウダーと塩をかけたものです。北インドだとスパイスミックスをつかうことが多く、南インドはシンプルなのだそうです。そうなんですね。基本的にはインド全域で食べられるものです。

○アル・パラク★★★☆☆南インドらしいが、よくわかりません

じゃが芋とほうれん草のカレーです。アル・パラクと言うと、本来は北インドのカレーです。それにココナッツミルクを入れて南インド風、ということです。

○ヨーグルトシチュー★★★☆☆南インドらしいが、よくわかりません

ヨーグルトに、炒めたトマトとスパイスを混ぜたものです。パチャディとも言えると思いますし、もしくはヨーグルトサラダであるライタの派生とも言えるかもしれません。おそらくはインド全域で食べられるものだと思います。歯切れが悪くてすみません。一つ言えるのは、いかにも南インド、というものではありません。

○パラク・ダル★★☆☆☆インド全域で食べられる

豆とほうれん草のカレーです。パラクという表記は、北インドで優勢なヒンディー語です。palak dalです。南インドでも食べますが、インドではどこでも出てきそうなカレーです。

○黒ごまのチャトニ★★★★★南インドらしいけど…

チャトニというのは、ペーストのようなものです。南インドでは、チャトニは一般的です。

焼きなすとじゃがいものタマリンド・カレー★★★★★南インドらしいけど…

焼きなすとマッシュしたじゃが芋の、酸味のあるカレーです。ベイガンバルタ、という北インドのカレーの派生でしょうか。南インドの家庭料理といった趣があります。正直に言って、このような名前のつけにくいカレーは、作った人が南インドだと言えば、そうなんだなと納得するしかありません。

 

以上です。簡単に集計します。

全レシピ数 33
★★★★★ 18
★★★★ 1
★★★ 7
★★ 5
2

星の数は恣意的なところもあるので、参考程度に見てもらえればよいのですが、ここで言いたいことは、「南インドに焦点が合っていない」もしくは、「レシピ通りにつくっても南インドの味にならない」ということです。

南インドを冠した本の割には意外と南インドらしくないんだなあ、と理解して頂ければ幸いです。

では、次の本書の欠点として、開かれた情報でない、ということを述べていきます。

 

3-2開かれた情報でない、とはどういうことか

開かれた情報でない、というのは下記の2点を指します。

①料理の正式名称が表記されていない。また、英語表記がない

②情報が体系化されていない

3-2-1この料理は何という名前?

料理の正式名称が表記されておらず、英語表記がないのは、大きな問題です

もし、本書をもとに、もっと知りたくなったとき、どうなるでしょうか。ネット上のレシピを検索するにしろ、本を探すにしろ、インドに食べに行くにしろ、名前は必須です。

例を挙げます。「鮭のココナッツ・カレー」です。

より一般化した名前としては、ケララ州の「meen moily」「meen mapas」だと思います。少し違いますが、アーンドラ州「chapa pulusu」なども良いかもしれません。ここにたどり着くことができれば、そこから先は自分で調べることができます。

「鮭のココナッツカレー」で検索すると、明らかに本書に影響を受けた人のレシピや、クックパッドのオリジナルカレーが出てきます。レシピ名を英語にして「salmon coconut curry」と検索すると、インドではない、ロンドンっぽいカレーがヒットします。ここまでで行き詰まる方がほとんどだと思います。

詳しい方であれば、このレシピを見て、ケララっぽいなあ、ということがわかれば、「Kerala fish curry」で検索すると、近いレシピが出てきます。

もし本書で、このように書かれていれば、それは開かれた情報といえます。

「このレシピは、ケララ州のフィッシュカレー、とくに「meen moily」に近いレシピである。それに、筆者独自のスパイスづかいのアレンジをして風味を高めている。具材はどの魚でも良いが、ここでは鮭をつかっている」

3-2-2情報が体系化されていない

南インド料理を紹介するのであれば、これらの用語の説明をするのが近道です。

ポリヤル、クートゥ、パチャディ、サンバル、ラッサム、コザンブ、チャトニ、ダル、コサンバリ、等です。

これらは、料理名であると同時に、分類名でもあります。この点を明確にしていないことが、本書の欠点です。少しわかりにくいので、例を挙げて説明します。

日本料理をまったく知らない人に、「マグロの刺身」、「こんにゃくの刺身」、「小松菜のおひたし」、「筑前煮」、「肉じゃが」というものを教えたとします。自分の家の作り方を、そのまま教えます。

教えられた方は、さまざまな疑問が湧くと思います。


刺身とは何だ?

こんにゃくのおひたしでは駄目なのか?

鶏肉を肉じゃがに使っても良いのか?

じゃが芋を筑前煮に入れても良いのか?

待て、ぬるっとした芋が筑前煮には入っているぞ。

小松菜の刺身もあるのか?

待てよ、よく見ると肉じゃがにも小松菜が入っているぞ。(たまたまそういう家だったのです)


これらの疑問には、「刺身」の定義や、「肉じゃが」の定義などを教えれば、解決します。つまり、体系的に教えれば良いのです。たとえ話なので大げさではありますが、初学者が本書を読むと、同じような状態になります。

そして、さらに恐ろしいのは、教えられたマイケルさんは、小松菜の入らない肉じゃがや、鯛の刺身を見て、

「なんだこれは、こんな料理は偽物だ!刺身というのはこんにゃくとマグロを使うんだ。肉じゃがには緑の小松菜が入るから美しいんだ!」

という誤解をしてしまうのです。いや、笑いごとではなく、本当にありうると思います。

以上、本書が、料理名が不明確である点と、情報が体系化されていないことを述べてきました。

本章をまとめると、このようになります。

「取り上げられているレシピは、南インドに焦点があっていない。また、料理名の表記が不十分で、体系化されていないため、開かれた情報でないと言える」

さらに、全体のまとめをすると、このようになります。

「読み物としては面白く、薬膳という切り口も親しみやすいが、取り上げられているレシピは南インドに焦点があっていない。また、料理名の表記が不十分で、体系的に述べられていないため、情報的価値は低い。とくに、初心者には向いておらず、体系的に学びたい方にも向いていない。ぜひ『誰も知らないインド料理』を読んでください」

以上で、渡辺玲「カレーな薬膳」の書評を終えます。お付き合いいただき有難うございました。

南インド屋も、まだまだ閉じた情報であり、体系化もされていません。今後も更新していきますので、よろしくお願い申し上げます。

 

 

え?これではまだ足りないですか?

それじゃあ、なんで本書は読み物としてしか楽しめない本になってしまっているのか、それが気になりますか。カレー&スパイス伝道師の本を読み物として扱うのは失礼ですか。

……わかりました、言い残していたことを述べましょう。ここから先は、本書を通読した方が読むことをお勧めします。また、これまで以上に抽象的で、私的な見解ですので、ご了承ください。

それはきっと、本書が薬膳を冠しており、コンセプトがはっきりしないからです。編集者が本書を消化しきれていないのです。それから、語り口に見られる、渡辺玲さんご自身の変化によるものかもしれません。

4.本書の問題点のその向こう

結論を先に述べてしましますと、以下の要因によって、本書は、このような本になったのだと思います。

①薬膳を冠している

②本書がコンセプトを明確にさせないで、旧来のレシピ本の枠に当てはめて制作された

③渡辺玲さんの、断定的で、奥義を獲得した人間であることを隠さない文体により、本書が料理体系の一部に過ぎないことが隠されている

この3つについて、これから述べていきます。

もう一度強調しますが、僕は本書が好きですし、南インド料理の店を始めたきっかけでもあります。ですが、それでもやはり、本書は南インド料理を学ぶには適していないのです。批判的に取り上げてはいますが、ただ、学びたい人には向かない、と主張しているのです。読み物として楽しめばよいと思います。

理由①薬膳を冠している

本書は書名に、薬膳を冠しています。これがそもそもの間違いです。(売り上げ的には間違っていなかったのかもしれませんが。)

この本は、薬膳の本なのでしょうか?

いえ、レシピ本です。

本当に、なんで薬膳を前面に出しているのか、わかりません。これを食べれば元気になる、病気が治る、というのが薬膳なのでしょうか。茄子を食べればがん予防になる、というのが薬膳なのでしょうか。詳しくはないので断言したくありませんが、絶対に違います。

本書は、章立ても薬膳を軸にしていますし、プロローグからエビローグまで、健康情報目白押しです。ただし、内容としては、非常に薄いです。ビタミンCで美肌や便秘解消、抗酸化効果の高い玉ねぎ、ベータカロテンは抵抗力を高める、といった情報を並べているだけです。

また、インド料理でありながら、アーユルヴェーダについて詳述していないのも、片手落ちな気がします。

実際には、この本の価値は、レシピにあります。決して薬膳の本ではありません。まちがいなくレシピ本です。

このように、そもそも書名からして怪しい本書は、レシピ本としても、コンセプトのないものになってしまっています。それを、理由②で述べます。

理由②コンセプトがはっきりしていない

日本において、レシピ本に求められるのは、「なにか格好いいものを作ってみたい!」という需要に応えることだと思います。ただの和食だけでなく、洋風のオムライスが作ってみたい、からはじまり、フランス料理に憧れ、中華料理にも熱い視線を送る。コーンビーフでサンドイッチを作り、サングリアを庭で飲むなんてお洒落です。栗原はるみさんの「ごちそうさまが、ききたくて」(文化出版局)は好きな本です。

そして、それも飽きてくると、チキンカレーに目をつけ、ナーンのおいしさを経て、和食の良さを再発見し、そしてモロッコ料理やタジキスタン料理にも手を出すのでしょう。それらがどれくらい根付いているかは知りませんが、世にこんなにもレシピ本が出回るところを見ると、そういう浮動票は、結構多いのでしょう。

もちろん、真剣に料理を記述するものもありますし、そういう本と、上記の世の流行を追うような本は、どちらもあってよいものなのだと思います。本格派だけが本であるとは言いません。分厚い本格的な書だけだったら、世の本屋の棚は、置くものが無くてすかすかになると思います。

では、本書は、どちらなのでしょうか。

どちらでもなく、半端なのだと思います。

日本でマイナーな南インド料理を世に伝える「カレー&スパイス伝道師」渡辺玲さんの著作です。啓蒙的な意味合いがないとは言わせません。必ずしも厚い本である必要はありませんが、伝道師である以上、本格的であるはずです。

けれど、中身は、意外と、旧来のレシピ本の作法に則っているのです。そこに本書の悲哀があります。

さて、こんなことを言う以上は、旧来のレシピ作法に則っている、という論拠を示さなければいけません。このような論拠があります。

  1. 料理の見た目が日本風である
  2. あっさり味が受けないという読者像を設定している
  3. 本書のレシピが、「いわゆるカフェスタイルのダイニングバー」(本書p.203)で渡辺玲さんが提供していたものをベースにしている

理由①-1 料理の見た目が日本風である

本書がどのような理念のもと作られたかを知るうえで、見た目はとても大切です。この写真がないと話が進まないので、スキャナーで取り込みました。

鋭い方なら、この写真を見ただけでここで言いたいことを理解して頂けるかと思います。

出典:『カレーな薬膳』渡辺玲著/晶文社(2003年)

いかがでしょうか。これは、平野レミさんの昔の本ではありません。2003年の本です。

○右下にあるのが、オクラとパプリカのサンバルです。明らかに、野菜の切り方が大きいです。

○その上にあるのが、タマリンドライスという、混ぜご飯のようなものです。こういう見た目のものもありますが、もっと黒っぽい方が一般的です。おそらくはタマリンドが少ないのです。

また、このレシピでは日本米を使っているため、やわらかく米同士がくっつきやすいはずです。それを、無理にインディカ米風に見せるため、このような盛り付け方になったのだと想像します。

○タマリンドライスの左にあるのが、カリフラワーのクミン炒めです。これはとにかく、切り方が大きくて食べにくそうです。

ここで主張したいのは、「インドらしくないから駄目だ」ということではありません。そもそもインドらしさとはなんぞや、となると、深遠なインド亜大陸に吸い込まれて議論が進みません。ここで問題なのは、「いかにも日本風である」ということです。これはいけません。

もちろん、この本が、「なにか格好いいものを作りたい」という需要にこたえる本であるなら、見た目が日本風でもよいのですが、果たしてそれが著者の意図なのでしょうか。インド料理の本なのに、日本風の見た目にしたかったのでしょうか。

このように、どういうコンセプトの本なのか、料理の見た目からは混乱した印象を受けます。

理由①-2 あっさり味が受けないという読者像を設定している

カレー&スパイス伝道師のものする本書が、どのような読者像を設定しているか、レシピの順番から考えていきます。ここでも、食い違いがあります。

本書では、「南インドカレー」をあっさりで、オイルが少なくて、毎日食べられるようなもの、として捉えています。やや冗長なプロローグでそれが繰り返し語られ、そして、さあ、やっとレシピだ、と紹介されるのが、「なすのココナッツマサラ」です。

これ、わかる方なら、ずっこけそうになるチョイスです。そこでこれか、と。

ちなみに香取薫さんの「家庭で作れる 南インドのカレーとスパイス料理」(河出書房新社)のレシピは、キャベツのポリヤルからはじまっています。これは、納得です。

「なすのココナッツ・マサラ」はおいしいカレーですが、トマト、玉ねぎ、ココナッツ、カシューナッツ、ポピーシード、それに油で焼いたなすです。簡単に言うと、くどい味です。そして、いかにも南インドらしいサンバルとラッサムや、ほうれん草と豆のカレーなど、地味なカレーは最終章に置かれています。

編集者側の考えも良く分かります。ただでさえ認知度の低い分野のレシピ本なのだから、せめて印象に残るひとつめのレシピくらい、だれでもおいしく食べられる、味の濃いカレーにしたい、という気持ちはよくわかります。広い意味での経営判断なのでしょう。

ただし、そういう読者像の設定は、旧来のレシピ本と変わらないでしょうし、「カレー&スパイス伝道師」には、似つかわしくありません。

この読者像の設定のあいまいさも、コンセプトの不明確さを物語っています。

理由①-3 本書のレシピが、「いわゆるカフェスタイルのダイニングバー」(本書p.203)で渡辺玲さんが提供していたものをベースにしている

エピローグの文章を引用します。正直に申しまして、本章の冒頭にこれを持ってこれば、話はそこで全て終わりだった気もします。

二十一世紀初頭から足掛け三年、知人の経営する飲食店のシェフを務めた。引き受けた店はインド料理専門店ではなくいわゆるカフェスタイルのダイニングバー、有機野菜の青果店を営むオーナーの意向により食材はオーガニック、お客様に提供する料理も和洋中エスニックが一堂に会する多国籍というのが基本コンセプトだった。(中略)お察しの通り、本書に登場したレシピは、そのほとんどがこの店で供していたものをベースにしている。(本書 p.203)

 

なんというか、これまでの長広舌が、すべて無駄だったような気もしてきます。道理でこういう本になるわけです。これはもう、コンセプトもくそもありません。

このように、見た目、読者像の設定、レシピの出どころ、三つを挙げて、本書のコンセプトが明確でないことを、述べてきました。

次に、渡辺玲さん本人の問題に入っていきます。

理由②渡辺玲さんの、断定的で、奥義を獲得した人間であることを隠さない文体により、本書が料理体系の一部に過ぎないことが隠されている

なぜ本書を読み物として楽しむことを勧めるか、それは、この本が、南インド料理に対する、誤解を生みやすいからです。その一因として、断定的な語り口があります。本書は、断定に満ちています。

ですが、渡辺玲さんのほかの著作を読むと、必ずしもそうではないのです。転換点がどこにあるとは言えませんが、ブログでも、5年ほど前までは、ですます調で書かれていました。(渡辺玲研究者がもしいらっしゃいましたら、この点について、ぜひご教授ください)

本書より前の1997年に書かれた「誰も知らないインド料理」から、少し長いですが引用します。ここに、当時の渡辺玲さんの姿勢が表れています。とても良い文章です。

本書はこうした「マサラ・ビギナー」のための手引き書です。本場のインド料理世界の一端がここにある、と考えていただいて差し支えありません。

ただし、マサラの意味や語法がさまざまあるように、インド料理の調理法、そして実際のレシピもさまざまなスタイル、バリエーションがあります。だから本書の中にみなさんご存知のメニューを見つけ、たとえ料理手順が互いに異なっていても、どちらかを否定することはしないでください。

おそらくどちらも間違ってはいないはずです。同じネーミングのカレーでも、いろいろなレシピのあるところがインド料理の奥深さですから。要は手軽でおいしく体にいいか、というところです。本書のメニューやレシピは、そうした観点からチョイスしてあります。トライしてみて、もしどうしてもお分かりにならない点があれば、お気軽にお問い合わせください。

渡辺玲著「新版 誰も知らないインド料理」光文社(2012年)

「カレーなる薬膳」やブログで渡辺玲さんを知った方には、この文章は、意外に思われるかもしれません。文体が全然違いますね。そして、この文章は、インド料理が多様性を持っていて、それを一面的にとらえることが危険であると仄めかすものです。こういう姿勢で書かれた本であれば、初学者にも、体系的に学びたい方の入門書としても、勧めることができます。

ここで、個人的な例を挙げます。

「サンバルパウダー」というものがあります。サンバル、というカレーに使われるスパイスミックスのことです。このスパイスミックスには厳密な定義はなく、あくまで総称です。ほんとうに、様々です。

その点が、本書には書かれていません。

だから、初学者であった頃の私には、この点が理解できませんでした。サンバルパウダーと言えば、「カレーな薬膳」に載っているもの、そのものを指すのだと思っていました。

本書のレシピ内でサンバルパウダーの配合が示されています。コリアンダー、クミン、などを使っていますが、コリアンダーやクミンの入らないサンバルパウダーも、一定数、存在するでしょう。コリアンダーは香りが強く、あまりあっさりしたカレーには合わないので、嫌う方がいるのもわかります。

これはあくまで個人的な例ですが、あまりに断定的な口調で文章をつづることは、そういう弊害もある、ということの一例にはなるかと思います。本書が、引用した文章の姿勢をもって執筆されていれば、このような誤解は起こりにくかったでしょう。(本当は、個人的な例をもって批判をするのはルール違反なのですが、ご容赦ください。)

では、なぜこのような文章になったのか。それは御本人に聞いてみるしかありません。

ひとつ、推測を述べます。先生になりたかったのだと思います。

渡辺玲さんは料理教室を経営なさっていますし、レシピ本などの著作をものしておられます。それらに集客し、お金を払わせるためには、「自分は奥義を獲得した人間である」という演出をすることは、古典的なやり方です。また、断定的に書かれた文章に共鳴すると、人は視野が狭くなりがちです。これが唯一の真理なんだ、と思ってしまうのです。

実際に、渡辺玲さんは、奥義を獲得した方なのでしょう。インド渡航歴も20回以上と書かれています。だから、それを、日本の人々に「伝道」するのは、自然なことなのでしょう。

けれど、著作として残っている本書は、決して完全無欠の本ではありません。その点は、疑いようがありません。だから、インド料理を体系的に学びたい方、または、初学者には、「誰も知らないインド料理」をお勧めします。

まとめます。

この章では、この本が、初学者や体系的に学びたい方には勧められないような、読み物としてしか楽しめない本になった3つの理由を述べてきました。

すなわち、①薬膳を冠した書名、料理の見た目や設定する読者像、そしてレシピの出どころから導き出される、②コンセプトの不明確さと、③著者の断定的な語り口です。

これに、ここまでのまとめを合わせるて、本稿の結びとします。

「本書は、コンセプトが不明確なまま、断定的な調子で綴られている。また、取り上げられているレシピは、南インドに焦点が合っておらず、料理名の表記が不十分で、体系的に述られていない。そのため、初心者には向いておらず、体系的に学びたい方にも向いていない。ぜひ『誰も知らなインド料理』を読んでください」

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